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 9月10日、中国アリババ集団の創業者である馬雲(ジャック・マー)氏が、会長を退いた。この日はアリババ創業20周年の記念日であり、マー氏の55歳の誕生日であり、中国では「教師節(教師の日)」だ。もともと杭州で英語教師をしていた経験を持ち、これから教育慈善活動に向かいたいと語るマー氏にとって、ふさわしい退任日と言える。

(写真:AP/アフロ)

 アリババは1999年にマー氏が18人の仲間と共に立ち上げた。20年後の2019年3月期の売上高は前期比51%増の3768億元(約6兆円)。時価総額は世界7位の約50兆円に達した。

 なぜアリババは、これほどの成功を収めることができたのか。中国の爆発的な内需拡大という追い風はあった。ビジネスモデルも優れている。「アリペイ」は中国をデジタル決済先進国へと押し上げた。そこで打ち出した信用スコアという考え方は、ともすれば公共の場でも自己中心的な行動に走りがちとされた中国人の振る舞いまで変化させた。

 何よりもアリババとその他のネット通販企業を分けたのは、アリババがデジタル技術の価値を知り、投資を怠らなかったことだ。例えば、「双11(11月11日)」のセールの成功は、アリババのシステムに多大な負荷をかけ、システムはダウン寸前に追い込まれた。そこでアリババが採った方策は、データベースソフトを商用のものから内部開発したものに切り替えてシステムを再構築するというものだった。今年7月には独自開発のAI(人工知能)用半導体チップも公開している。自動運転や「つながるクルマ」にも取り組んでいる。

 今やアリババはIT大手をしのぐソフトウエア開発の技術力を持ち、ビジネスモデルを磨き続ける中国有数の企業となった。そんな同社でも苦戦している分野がある。それが「海外」だ。

 同社の19年3月期の中国小売事業売上高は2476億元なのに対して、海外は196億元にとどまっている。中国における成功やビジネスモデルをいかに海外に広げていくかという命題は、後任のダニエル・チャン(張勇)CEO(最高経営責任者)に委ねられた。

 マー氏は引退に際し、アリババの社員たちに対して、ビジョンと社会に対する責任感を持ち続け、社会に貢献する企業であり続けるよう語りかけた。そのスピーチは高い志と説得力に満ちた内容だった。