全2872文字

内部告発で明るみに出た隠蔽

 記事を書いたのは、ピュリツァー賞の受賞歴もある同誌契約記者のローナン・ファロー氏だ。そこには、メディアラボの職員たちが、エプスタイン氏がどのような人物かを認識したうえで、伊藤氏と別のメディアラボ幹部、ピーター・コーエン氏の指示のもと、エプスタイン氏の名が表に出ないように必死に隠していた事実が、実際の電子メールの画像とともに生々しく記されていた。

 メディアラボには、伊藤氏とエプスタイン氏のつながりを不快に感じていた人もいた。14年に同研究所の寄付金を扱う部門で働いていたシグネ・スウェンソン氏は、エプスタイン氏が少女に対して性的虐待をしていた事実を知っていた。エプスタイン氏は08年にも、フロリダ州で少女への性的虐待と人身売買の容疑で起訴され、13カ月の実刑判決を受けていたからだ。MITでエプスタイン氏は、寄付者として「不適格者」と登録されていた。

 記事の中でスウェンソン氏はこう証言している。「(エプスタイン氏が)小児性愛者であることは知っていたので、コーエン氏にそう伝えた。彼と関係を続けるのが良いとは思えないとも」。だが、その後も伊藤氏やコーエン氏とエプスタイン氏の関係は続いたという。スウェンソン氏は16年に辞職した。

 なお、08年当時、エプスタイン氏の罪に対して禁錮13カ月は軽すぎるとして米国で話題になった。彼を検挙したアレクサンダー・アコスタ州検事(当時)がエプスタイン氏の弁護士と協議し、減刑に応じた。アコスタ氏は後に、トランプ政権の労働長官に就任している(その後に辞任)。ドナルド・トランプ大統領はエプスタイン氏と過去に友人関係にあったことで知られている。

エプスタイン氏に「ヴォルデモート」のあだ名

 記事を読んだ伊藤氏の支援者たちの中には、怒りの声を上げる人も出てきた。グーグルとフェイスブックの元幹部で現在はMIT教授のメアリー・ルー・ジェプセン氏は、請願書に署名した一人。ところが9月7日付の自身の記事では、立場は正反対になっていた。「伊藤氏は私やMITを含むたくさんの人たちにウソをついていた。(中略)MITのルールも守れないなんて。彼を信じた私は間違いだった」と嘆いた。

 特に支援者たちを不快にさせたのは、メディアラボの職員たちの間でエプスタイン氏が、『ハリー・ポッター』シリーズに出てくる悪役「ヴォルデモート」または「名前を言ってはいけないあの人」と呼ばれていたことだった。

 技術系メディア編集者のカラ・スウィッシャー氏は、地元紙ニューヨーク・タイムズのオピニオン欄にこんな意見を投稿した。「MITメディアラボと伊藤氏を取り巻く数々の気分が悪くなるような詳細の中で最もひどいことは、小児性愛者のあだ名に子供向けの小説に出てくる登場人物の名を付けていたことだろう」