2019年9月7日、日本人にとってショッキングなニュースが米国で流れた。マサチューセッツ工科大学(MIT)の教授で、傘下の著名研究所であるメディアラボの所長を務めていた伊藤穣一氏の辞任である。少女への性的虐待などで逮捕され、拘置所内で自殺した米富豪のジェフリー・エプスタイン氏から資金を受け取っていたことを認め、その責任を取った。

このニュースを聞いて、「なぜ伊藤氏だけが責任を取るのか?」と疑問に感じた人も多いのではないか。というのも、エプスタイン氏から資金を受け取っていた大学や研究者は伊藤氏だけではないからだ。
ではなぜ伊藤氏だけが問題視されるのか。日本では、エプスタイン氏の事件に関する報道が米国に比べて少ないため分かりにくいが、米国での報道を順に追っていくとその理由が見えてくる。
「辞めないで」の署名が集まった8月
米国内でエプスタイン氏への注目が一気に集まったのは、同氏がニューヨーク南地区の連邦地検に起訴された今年7月だ。8月10日に同氏が拘置所内で自殺すると、報道は一気に過熱。そんな中で出てきたのがエプスタイン氏から寄付を受け取っていた大学や科学者たちのリストだった(バズフィードの関連記事)。
8月15日、伊藤氏は謝罪文をMITのホームページに掲載。13年からエプスタイン氏と交友があり、メディアラボだけでなく自身の投資ファンドにも資金提供を受けていたことや、複数ある同氏の邸宅にも訪問したことがある事実を認めた。そのうえで、「彼がしてきたひどい行為に関係したことも、彼がそれについて話すのを聞いたことも、また行為の痕跡を見たことも決してない」と釈明した。
大学の資金集めは世界トップクラスの研究機関といえども厳しい。伊藤氏は、未来を変えうる技術の発展に貢献する研究者たちを支えようと資金繰りに奔走してきた。そんな姿を傍らで見てきたMITの教授や知人たちは、伊藤氏のために立ち上がった。「辞めないで」と訴える専用サイトを立ち上げ、請願書に250人を超える署名を集めたのだ。
ところが9月6日、状況が一変する。伊藤氏に関する新しい事実を示した記事が雑誌ニューヨーカー(電子版)に掲載されたからだ。
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