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 「彼女は窓際に立つと、髪を直し、スカートを整え、そして飛び降りた」

 ニューヨークに赴任して初めての9月11日がやってくる前に、どうしても見ておきたかった場所を訪れた。9・11メモリアル・ミュージアム。2001年9月11日にテロリストの攻撃に遭い、崩れ落ちたワールド・トレード・センター(WTC)跡地にある博物館だ。

2棟のタワーがあった場所には、「プール」と呼ばれる巨大な記念碑がある。へりの石碑に亡くなった方々の名が刻まれている
博物館の中にあった電波塔の残骸。破壊のすさまじさを伝える

 熱に溶けて形がいびつになった鉄塔や消防車、ビルの残骸、犠牲者たちの遺品など、見るだけで当時のすさまじさが伝わってくる品々や映像が数多く展示されていた。いずれも強烈なインパクトを見る人に与えるが、中でも強烈だったのが「ザ・フォーリング・マン」と名付けられた展示コーナーだった。

世界に衝撃を与えた1枚の写真

 当日のニューヨークには、すっきりとした青い空が広がっていたという。朝8時45分頃、1機目の飛行機がWTCの北棟に突っ込んだ。その衝撃で110階建てのビルの90階付近に大きな穴が空き、燃料が一気に燃え広がった。数百人がすぐに亡くなり、上層階にいた人々は逃げ場を失い、閉じ込められた。

 18分後、2機目の飛行機が今度は南棟の80階辺りに突っ込んだ。閉じ込められた人々は、火の手に追われる中、究極の選択に迫られた。とどまって火にのみ込まれるか、割れた窓から飛び降りるか。多くの人が後者を選び、タワーの外で息をのんで見守っていた人々の目に焼き付いた。

 展示のタイトルになっていた「ザ・フォーリング・マン」は、AP通信のカメラマン、リチャード・ドルー氏が撮影した1枚の写真を指す(Wikipedia、写真が出てくるので見たくない方はクリックしないようにしてください)。北棟付近で9時41分頃、真っ逆さまに落ちていく男性を捉えた写真だ。