8月31日、タイの首都バンコクに大型アウトレットモールが開業した。タイ小売最大手セントラル・グループが開発した「セントラル・ビレッジ」だ。タイの玄関口であるスワンナプーム国際空港に隣接し、4万平方メートルの敷地に150以上のブランドが軒を連ねる。年間600〜1000万人の来客数を目標とし、うち4割程度は外国人になると見込む。

タイ初の大型アウトレットモールとして注目を集めるセントラル・ビレッジだが、開業に際しては騒動にも見舞われた。8月22日、スワンナプーム空港を運営するタイ空港公社(AOT)によって、モールの出入り口が強引に封鎖されてしまったのだ。AOTは自社の所轄地をセントラル・ビレッジが許可なく使用していると糾弾し、さらに渋滞を引き起こして空港へのアクセスを妨げるほか、その照明などがパイロットの操縦を混乱させるとも主張した。
セントラル・グループでモールの開発運営を手がけるセントラル・パタナ(CPN)は封鎖の解除を求める行政訴訟を起こし、28日には開発の正当性を訴えるため緊急記者会見を開いた。「(セントラル・ビレッジの土地は)AOTの管轄下にはない」。 同社のプリーチャ・エックナグン社長兼CEO(最高経営責任者)こう説明し、「プロジェクトでは全て必要な手続きや許認可を受けてきた」と主張した。
行政裁判所がCPNの主張を受け入れ、AOTに封鎖の解除を命じたのは開業日の前日のこと。これによりセントラルは何とか予定通りの開業にこぎ着けることはできたものの、出入り口を封鎖されたことで一部店舗の開業準備に支障が出た可能性はある。
モールの開発プロジェクトは2015年には始まっている。仮にCPN側に問題があったとしても、話し合いや解決の時間は十分にあったはずだ。それにもかかわらず、なぜ開業直前になってAOTはモールの土地利用について問題があるとして、出入り口の封鎖という強引な妨害行動にまで打って出たのか。
その背景はつまびらかになっていないが、関係者や現地メディアの間では背後に免税店を展開するキングパワーの意向が働いていると見る向きが強い。
キングパワーはスワンナプーム空港を含むタイ主要空港の免税店を独占的に運営している。免税店は入札によって運営業者が決められるが、常にキングパワーが落札する事態が続く。その過程が不透明なことから、関係者の間ではキングパワーと公社であるAOTとの間に癒着があるのではないかと疑う声が根強くあった。そのため今回の騒動についても「キングパワーがセントラル・ビレッジを(観光客を奪う)商売敵と見て、関係の深いAOTを利用して開業を妨害した」と関係者は見る。
観光市場の拡大、米中貿易摩擦で暗雲
「嫌がらせ」とも取れる今回の騒動はまれなケースであり、タイの小売業で同様の事態が今後も頻繁に起きるとは考えにくい。一方で、仮に関係者が言うように「キングパワーがセントラル・ビレッジを脅威と見て動いた」結果、今回の騒動が起きたとすれば、これはタイの観光市場で競争が激化する前触れ、あるいは「前哨戦」と位置づけられるのかもしれない。
米中貿易摩擦を主因として、観光市場をけん引してきた中国人観光客数が伸び悩み、今後は市場の拡大にブレーキがかかる恐れがあるからだ。
今年1〜7月にタイを訪れた外国人観光客数は前年同期比2%増えており、堅調に見える。だが内訳を見ると訪タイ観光客の約3割を占める中国人観光客が3%減少している。これを受けてタイの観光・スポーツ省は7月と8月の2カ月連続で年間の外国人旅行者数の見通しを引き下げることを余儀なくされた。
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