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 米国がドイツ企業の鬼門になっている。

 その象徴が独医薬・農薬大手のバイエルである。同社は20日、米エランコ・アニマルヘルスにアニマルヘルス事業を総額76億ドル(約8000億円)で売却すると発表した。この1年でフットケア事業を売却したほか、全従業員の1割に当たる1万2000人の削減を打ち出した。

 バイエルが事業売却や人員削減を進めるのは、米企業の大型買収でつまずいたからだ。同社は2018年6月に米種子大手モンサントを630億ドル(約6兆7000億円)で買収した。買収完了直後に本誌のインタビューに応じたヴェルナー・バウマンCEO(最高経営責任者)は、「買収により農薬・種子事業で世界最大手になる。両社は補完関係にある」と語り、買収戦略に自信を見せていた。

 だが、状況は暗転する。買収後にモンサントの除草剤「ラウンドアップ」が原因でがんを発症したとの訴訟が急増し、18年8月に米カリフォルニア州で巨額の賠償金支払いを命じる判決が出た。その後もバイエルに巨額の賠償金の支払いを命じる判決が続いている。

昨年6月、本誌のインタビューに応じたバイエルのヴェルナー・バウマンCEOは、米モンサント買収の成果に自信を見せていた(写真:永川智子)

 5月には株価が52ユーロとモンサント買収完了時のおよそ2分の1に沈んだ。バイエルは様々な経営改革を続けているが、株価の上昇は限定的だ。原告数は1万8400人に上っており、賠償金は1兆円を超えるとの見方があるためだ。市場は巨額の賠償リスクを懸念している。

 経営陣は一貫してラウンドアップの安全性を主張している。18年9月にモンサントの除草剤を使ったオランダの農場に行くと、バイエルの担当者が「ラウンドアップとがんの因果関係は証明されていない」と熱心に語っていた。農場内ではミツバチを飼うなど、農薬の安全性を強調していた。

モンサントの除草剤「ラウンドアップ」は世界で広く使われている

 だが、バイエルは米国の裁判所で陪審員たちを説得できていない。M&A(買収・合併)法務の専門家である弁護士はこう指摘する。「当然、モンサントを買収する際にバイエル経営陣は法務担当から訴訟リスクについて説明は受けていただろう。だが、法務リスクを定量化するのは難しく、感覚的に判断せざるを得ない部分がある。バイエル経営陣は米国の訴訟文化に対する感度が鈍かったため、リスクを軽視した可能性がある」。