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 「マクドナルドやスターバックスのような1兆円企業を目指したい。米国法人のIPO(新規株式公開)は、その第一歩だ」

 ニューヨーク・マンハッタンのほぼ中央に位置するナスダック・マーケット・サイトは、ナスダック市場に上場する企業がベルセレモニーを行う場所だ。2019年8月1日、米国法人を同市場に上場させた回転ずし大手くら寿司の田中邦彦社長はここでベルセレモニーに参加し、満足そうにこう話した。同日の終値は公開価格14ドルを40%上回る19.61ドル。日本の外食チェーンとして米国法人のIPOを実施したのは同社が初めてだ。ちなみに「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービスは18年に米預託証券(ADR)で上場したが、業績が振るわず19年7月に上場を廃止している。

取材を受ける田中社長(左)と米国法人の姥一CEO(最高経営責任者)。「米国法人設立当初から田中社長に米ナスダック上場を約束していた。約束が果たせてほっとした」と姥氏

 米国法人であるくら寿司USAは2008年に設立した。現在はカリフォルニア州を中心にテキサス州やイリノイ州など5州で22店舗を展開し、17年9月~18年8月期の売上高は5174万4000ドル(約55億円)、純利益は174万2000ドルだった。同期末までに開店していた店舗数が17店舗だったので、1店舗当たりの売上高は単純計算で3億円超。回転ずし最大手スシローの日本市場での1店舗当たり売上高は3億円超といわれていることを考えれば、くら寿司の米国店舗も繁盛店といっていいだろう。

米国進出成功の裏に日本で培った「改善力」

 くら寿司が米国市場で成功した要因は、日本市場で鍛え上げた「改善力」にあるようだ。

 日本のくら寿司に行ったことのある人ならご存じだと思うが、くら寿司の特徴は、客が注文した皿が回転ずしのレーンとは別に高速レーンで運ばれてくる「くらオーダーレーン」や、食べ終わった皿を顧客が自分で水洗浄レーンに投入すると景品が当たる「ビッくらポン!」など、そのエンターテインメント性にある。こうしたハードウエアとソフトウエアを組み合わせた独自の「くらシステム」は、来店客にとっての楽しさであると同時に店員の仕事を効率化する改善の役割も果たしている。

 姥CEOによると、くら寿司USAでは日本と同じシステムを採用して効率化を図る一方で、米国の文化風習に合わせて一部の運用面をローカライズしたという。ここに成功の秘訣があるようだ。

 ローカライズといっても、米国店舗で一律に実施したのではなく、州の法制度や風習に合わせて変えた。例えば、客がウェーターやうウェートレスのサービスに応じて支払うチップ。米国ではどの州でもチップの風習があるが、州によってはチップを最低賃金の中に含めたり含めなかったりするうえ、最低賃金も州によって異なる。そのため詳細は明かしていないが、各州の法制度に応じ、最適な賃金設定を構築することで、コストを抑えながら優秀な人材を獲得する体制を整えた。