タイでワンパンマンの1巻が出版されたのは2016年、日本から遅れること4年後のこと。既にこの段階で関心のある読者は海賊版を通してワンパンマンを読んでいた。しかも海賊版サイトは翻訳した最新話を随時アップロードしている。つまりインドネシアやタイの読者にとって、遅れて出版される正規版の紙の本を購入する動機がほとんどなく、実際に本を購入しているのはコレクション目的の一部愛好者にとどまっている可能性がある。

 「『ワンパンマン』人気は、そもそも出版社が手がけたものではない」とOokbeeのパサヴォン氏は指摘する。東南アジアでは、既に日本の漫画やアニメを趣味とする消費者のコミュニティーが作られている。日本の動向をいち早く知る彼らがワンパンマンに注目し、その存在をフェイスブックなどSNSで発信。さらに一部の愛好者が漫画のコピーに翻訳を付けたことで、人気が広がっていった。

「中身はクール、でも届け方がクールじゃない」

 「タイ語版のワンパンマンを発行する現地出版社は、ネット事業の展開では遅れている」。こう話すOokbeeのパサヴォン氏は続けて「私たちに任せてくれれば、海賊版の普及を抑えつつ、もっと効率的にコンテンツを普及させられるのに」と悔しがる。

 Ookbeeはタイや韓国、中国を中心に約7500作品をアプリを通して配信し、月間100万人を超える利用者を集めている。海外作品はライセンスの管理から翻訳、流通まで手がける。海賊版には神経をとがらせており、作品がアップロードされていないかをチェックする専門の調査チームを組織。発見した場合は海賊版サイトの運営者に連絡し、作品を取り下げるよう動く。漫画好きのコミュニティーを育て、影響力のある読者に作品を紹介してもらうというマーケティング手法を取っているため「彼らの情報網も活用し、海賊版サイトの動向を常に把握している」(同)という。

 パサヴォン氏が日本のコンテンツに関して危惧しているのは、海賊版の横行や電子書籍展開の遅れだけではない。ネットやアプリで流通するマンガは、1話ごとに「バラ売り」されているのが普通だ。漫画本で1冊当たりの価格は70バーツ(約240円)前後で、タイラーメン(40バーツ前後)よりも高い。一方、アプリでのバラ売り価格は1話当たり3バーツから4バーツ(10~14円)程度。これなら財布に余裕のない学生でも気軽に購入できる。少しずつ日本の漫画も電子書籍化が進んでいるが、この形式に対応しているコンテンツはほとんどない。

 ワンパンマンの事例は特殊ではなく、多くの作品が東南アジアで同じような課題に直面していると見られる。Ookbeeが成長している背景には多くのマンガファンの存在があり、少額とはいえ、きちんとお金を払ってコンテンツを楽しんでいる読者がいる。だが日本のコンテンツは高価な紙の本で読むか、あるいはなじみのあるスマートフォンで海賊版サイトにアクセスするしかないのが現状だ。

 「日本のマンガはクールだ。ただ届け方がクールじゃない。もったいない」と前出のインドネシアのオタク学生は言う。世界の読者を夢中にできるコンテンツをいかに「クールに」届けるか。その課題を解決できれば、東南アジアは日本のマンガにとってより魅力的な市場になるはずだ。

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