
米アップルがまた1つ、有力な半導体技術を手に入れた。同社は2019年7月25日(現地時間)、米インテルのスマートフォン向けモデム事業の大半を買収すると明らかにした。モデムとはLTEといった移動通信に必要な半導体部品を指す。同事業にかかわる2200人ほどの従業員がアップルに移るとともに、関連する1万7000件以上の知的財産や設備などを19年第4四半期までに移管する予定。アップルが見積もる買収額は約10億ドル。これは14年に買収した米ビーツ・エレクトロニクスの30億ドルに次ぐ2番目に大きい金額だという。
今回の買収はかねてより噂されており、今年4月に一気に現実味を帯びてきた。アップルが米クアルコムとの特許ライセンスを巡る一連の訴訟を取り下げることに同意。この発表とほぼ同じタイミングで、iPhoneなどアップルの端末にモデムチップを供給していたインテルが、高速通信規格5Gへの開発投資を中止することを明らかにした。アップルはインテルを5G用のモデムチップの調達先として見込んでいた。それだけに、アップルがクアルコムとの和解に至った背景にあることは想像に難くない1)。5G通信機能を早期にiPhoneに搭載するために和解を選んだと言えよう。
クアルコムに屈したかのように見えるアップルだが、今回の買収は反撃の狼煙(のろし)を上げたと受け取れる。アップル自らが5G対応のモデムの開発に本格的に取り組む可能性が高いからである。
もともとアップルはクアルコムに対して、特許ライセンスと半導体(移動通信用ベースバンドチップセット)の取引が不当であるとして提訴していた。これにより、アップルや同社の機器を製造受託する企業からクアルコムへの特許ライセンス料の支払いが未納となっていた。和解によりその未納分を支払うことになった。クアルコムが7月31日(現地時間)に発表した19年4~6月期の決算によれば、アップルとの和解で同社や同社の製造委託先などから得た収入は47億ドルだった。こうした巨額なライセンス料の支払いを今後軽減するため、アップルが5Gモデムを設計・開発する可能性が高い。
CPUやGPU、電源などの次はモデム
そもそもアップルは、iPhoneの主要な半導体部品の設計・開発に注力してきた企業である。例えば08年にCPUの設計を手掛ける半導体メーカー米P.A. Semiを買収し、アプリケーションプロセッサーの自社設計の契機とした。2017年には、iPhoneやiPadなどで長年利用してきた英イマジネーション・テクノロジーズのGPUコアの調達をやめることを通達し、その後自社開発のGPUコアに切り替えた。電源管理を行う「パワーマネジメントIC(PMIC)でも、PMICメーカーである英ダイアログ・セミコンダクターに総額6億ドルほどを支払い、ダイアログの資産と従業員の一部をアップルに移管した。今回の買収はこの流れの中にある。
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