クラウド勤怠管理サービスに引き合い殺到
タイの失業率は1%前後で推移している。26年ぶりの低水準となった日本(2.4%、2018年平均)よりも低い。労働市場は売り手優位で、従業員の転職に対するハードルも低い。多くの企業にとって従業員の離職は日常茶飯事で、人材をいかに定着させるかが課題となっていた。一定数の離職が出ることを前提に余裕を持って雇用する慣習はあるが、経済成長に伴う賃金の上昇により、こうした策も取りづらくなってきた。
しかもタイは他のアジア諸国に比べて速いペースで少子高齢化が進んでおり、今後ますます人材を確保するのが困難になる。採用した人材を早期に戦力化する仕組みを整えて業務を効率化し、少人数でも動く組織を作る取り組みが企業に求められるようになった。
これらは少子高齢社会で先行する日本にとっては目新しくもない問題で、既に人事管理や業務を効率化するサービスがいくつも生まれている。日本とタイの“時間差”に目をつけた企業が相次いで日本で練ってきた自社サービスをタイに持ち込み始めた。
勤怠管理やシフト作成などの作業を自動化するクラウドサービス「ジョブカン」を開発するDonuts(ドーナツ、東京・渋谷)は2017年に同サービスをタイで展開したところ、現地企業を中心に引き合いが殺到し、数か月で約200社との契約に至った。想定を上回る顧客の急増にサポート体制が追いつかず営業を一時、止めざるを得ない状況になったという。
「従業員の勤怠について、多くの企業が実態を把握しきれていないことが分かった」とタイ法人の代表を務める荒金弘明氏は話す。体制を整えて今年からジョブカンの営業を再開したところ、今度は日系企業から「(クラウドサービスの導入で)業務管理を効率化したい」との問い合わせが舞い込むようになった。
日系ネット企業、巻き返しのチャンス
日本で生まれた人事、業務改善サービスをタイに導入する動きは今後も続きそうだ。
人材サービスのネオキャリア(東京・新宿)は、勤怠・労務・人事管理などを効率化するクラウドサービス「jinjer(ジンジャー)」を年内にも投入する見通しだ。同社は既にタイで人材サービスを手がけており、今年からはグループ企業ウルトラテクノロジーを通じて、従業員に給与を前払いできるクラウドサービスの導入も始めた。「消費意欲が旺盛なタイの従業員向けのサービスで、福利厚生の一環として取り入れてもらえば従業員の定着率が向上する」と同社代表の吉田悟史氏は話す。
今秋には2016年創業のMarketing-Robotics(マーケティング・ロボティクス、東京・港)が、インターネット上で見込み顧客の行動を解析し営業を効率化するサービスのタイでの展開を始める。同じく2016年創業で動画コンテンツやマニュアルを社内で共有するツールを開発するsoeasy(ソーイージー、東京・品川)も、タイ進出を検討している。
タイを含めた東南アジアのネット市場で日系企業の存在感は大きいとは言えない。ネット通販やライドシェア、SNS(交流サイト)といった消費者向けサービスは、中国、シンガポール、インドネシア、米国発のサービスが大きなシェアを持ち、その牙城を崩すのは容易ではなくなっている。
一方で、人材管理や業務の効率化といった分野では、まだ他を圧倒するようなプレーヤーは登場していない。消費者向けに比べて派手さはないものの、この分野でなら日本で磨かれたサービスがアジア企業の「縁の下の力持ち」として花開くかもしれない。
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