タイで最も人気を集めている外国料理といえば日本食だ。2018年9月に日本貿易振興機構(ジェトロ)が発表した調査によれば、タイの日本食レストラン数は初めて3000店を突破した。出店が相次いだ首都バンコクの市場は既に飽和状態で、国内外の企業がしのぎを削る。近年では現地企業が日本食レストランの出店を加速させており、日系を圧迫する。
「日系企業は『本場』を打ち出すだけでは競争には勝てない」。こう話すのは、日本の居酒屋チェーン、てっぺん(東京・渋谷)グループのタイ法人、てっぺんタイランドの柳本貴生CEO(最高経営責任者)だ。
厳しい競争の中にあって、てっぺんタイランドは店舗数を拡大させている。ショッピングモール内への出店を含めて計8店舗を展開し、今年中に新たに3店舗を開く。フランチャイズ展開を加速させ、2024年までに直営店と合わせて100店を目指す。
既存店は日本人だけでなく多くのタイ人でにぎわう。日本の活気のある居酒屋を再現し、一部の料理を各テーブルで仕上げるなどライブ感を重視する。移ろいやすいタイ人客にリピートしてもらえるよう、メニューの3割は頻繁に変更して飽きられない工夫を凝らす。

こうした取り組みが奏功し、既存店の売上高は順調に伸びているという。だが店舗展開を加速させるには課題があった。従業員向けのマニュアル作成やメニューの更新に手間がかかることだ。
これまでにないサービスであればあるほど、マニュアル作りは時間がかかる。細かな指示を日本語からタイ語に正確に翻訳するのも一苦労だ。しかも一度作成したマニュアルを変更しようとすれば、全店舗に配布した冊子を回収し、作り直して配布する手間も生じる。
メニューの更新も同様で、これまでは責任者が全店舗を回り、材料や手順について一から指導する必要があった。1店舗あたり数時間、全店舗を回るのに数日を要する。効率は悪く、店舗数が急増した場合は目が行き届かなくなり、品質を均一に保てなくなる恐れもあった。
このままでは多店舗展開はおぼつかない。そこで柳本氏は昨年7月、日本のグループでは取り入れていない新しいクラウドサービスを導入した。2010年創業のベンチャー企業、スタディスト(東京・千代田)が開発した電子マニュアルの作成サービス「ティーチミー・ビズ」だ。
見本となるサービスの手順や新メニューの調理風景をスマホやタブレット端末で撮影し、アプリの指示に従ってその動画や画像を並べることで、容易に電子マニュアルを作ることができる。視覚に訴えられるので、言葉の通じない未経験の従業員にも作業内容を理解してもらいやすい。作成したマニュアルはクラウドに保存されるため、内容の変更も容易だ。
このサービスの導入により、メニューやレシピの変更を1分以内にマニュアルに反映できるようになり、2週間かかっていた全店舗への周知が2日以内で済むようになった。さらに「クラウド化することで、レシピや接客のノウハウが外部に漏れる心配もなくなった」(柳本氏)という。
スタディストは昨年10月からタイで本格的に事業を開始した。てっぺんのようにタイで利用する企業が現れたため市場調査したところ「業務の効率化を模索する企業が多く、事業拡大の機会が大きい」(タイ法人の豆田裕亮代表)ことが分かってきたからだ。
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