NECの最年少主席研究員はシリコンバレーで独立
一方、NTTとほぼ時を同じくして、NECが今年10月に人事制度を改定し、新入社員でも1000万円以上の年収を得られるようにすることが明らかになった。
NECは2018年にシリコンバレーの研究所で大きな出来事があった。機械学習で世界的にも有名なエンジニアである藤巻遼平氏とそのチームが研究所からごっそりと抜けたのだ。藤巻氏が新会社のドットデータ(dotData)をカーブアウト(事業の一部などを切り離して独立させること)で立ち上げた。詳細は非公開だがNECは株主として関係を保っている。
NECは藤巻氏を同社では史上最年少となる33歳で研究員の最高位である主席研究員に据えて、報酬面でも役員と同等レベルで処遇していた。ただ「AI・機械学習の分野でシリコンバレーの大手やスタートアップと渡り合っていくには、日本の大企業の組織では難しい面がある。一方で日本のスタートアップがシリコンバレーで新規に顧客を開拓するのも難しい」(藤巻氏)として、NECとの関係を保ちつつ、シリコンバレーで世界に打って出る道を選んだ。

滑り出しは好調のようだ。「シリコンバレーや米国内からもエンジニアなどが応募してくれるようになってきた」(藤巻氏)。2019年6月末には米調査会社フォレスター・リサーチのリポートで、自動化機械学習ソリューション分野のマーケットでリーダー的なポジションにある3社のうちの1社であると評価された。別の1社はこの分野で世界的にも有名になった米データロボットだ。
藤巻氏は「NECには第2の藤巻が出てくる流れをつくってほしい」と常々発言している。NECの1000万円スター新入社員はそのきっかけになるかもしれない。GAFAは大卒で1500万円以上の収入があるとされる。500万~600万円程度の日本の大手企業の新卒給与とのギャップはかなり埋まる。
NECがスター新入社員に1000万円を提示する以上、社内の優秀なエンジニアの賃金水準の見直しも必至だろう。実際、今回の制度改定は新入社員だけでなく、若手を対象にしたものだという。また、国内での優秀な人材の獲得競争を受けて、他社が追随していく可能性もありそうだ。
日本の伝統的な大企業であるNTTとNECが賃金水準だけでなく研究内容で世界基準をクリアできるか。それは日本全体の競争力にもつながる課題である。
まずは世界的に著名な学会でのプレゼンスを上げていくべきだろう。AIの学会ではGAFAや中国のテックジャイアントであるBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)が幅をきかせている。既にNTTが掲げる大学との連携も実現している。
量子コンピューターなどはグーグルも研究開発に取り組んでいる。NTTは基礎研究とはいえ重なる分野も出てくるだろう。それまでに世界的な地位を確立できているか。残された時間は意外と少ない。
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