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 フェイスブック(FB)が2020年のサービス開始を発表しているデジタル通貨「リブラ」。日本を含め、世界中の中央銀行や規制当局から批判や警戒の声が上がっているが、母国米国の連邦準備理事会(FRB)で議長を務めるジェローム・パウエル氏の反応は冷静だった。

 「利用者保護の面から見ても規制の面から見ても(フェイスブックが安全性や信頼性を担保することへの)期待はとても高い。これからの動向をかなり慎重に見ていきたい」

 シンクタンクの米外交問題評議会が19年6月25日にニューヨークで開いた講演会で、パウエル議長は聴衆からの質問に答えてこう話した(CNBCが公開したその時の動画)。実際に会場で聞いていたが、日本で報道されている「対立トーン」というよりむしろ、慎重ながらもそのメリットを認識している印象を受けた。リブラについて「concern(懸念)」ではなく「expectation(期待)」という言葉を使っていたからだ。

テクノロジーの中心は米国から中国へ

 リブラがビットコインのようないわゆる「仮想通貨」と異なるのは、米ドルや欧州ユーロなどの法定通貨を裏付けとし、価格が大きく変動しないように設計されている点にある。投機目的ではなく、あくまでオンライン上の金銭のやり取りが目的というわけだ。

 このヒントになったのが、中国・アリババ集団傘下でスマホ決済の「支付宝(アリペイ)」などを運用するアント・フィナンシャルだとされる。電子商取引(EC)サイトでのオンライン決済はもちろん、実店舗でもスマホを使ってQRコードを読み取れば簡単に決済できることから、中国を中心に利用が一気に広がり、今では利用者が10億人を超えた。

フェイスブックの「リブラ」のモデルは中国・アリババ集団の「アリペイ」だと言われる(写真:ロイター/アフロ)

 アリババ集団が展開するECサイトで得た膨大な利用者数を武器に始めたのが、幅広い金融サービスだ。今や公共交通機関の運賃や公共料金の支払いもアリペイでできるほか、中小企業向けの小口ローン「マイバンク」、クレジットカードのように支払いを翌月まで延期できる「アントクレジットペイ」、銀行預金よりも高い利回りをうたう資産管理サービス「ユエバオ」まで手掛けている。

 フェイスブックがリブラで狙うのもこうした金融サービスだ。フェイスブックの利用者数は世界で23億を超える。後発でもこの圧倒的な数で挑めば、アント・フィナンシャルや同様のサービスを展開する中国・テンセント(騰訊控股)にも勝てる可能性がある。

 もちろん、従来型の金融システムへの影響やマネーロンダリング(資金洗浄)に悪用されかねない点など、リブラの実現までにフェイスブックが乗り越えなければならない課題は多い。だが、この議論とは別に、テクノロジーが世界にもたらす「イノベーション」という観点で見ると別の側面が浮かんでくる。イノベーションの震源地が米国から中国に移りつつあるという現実だ。