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年内でアップルを退社するジョナサン・アイブ氏(右)。左はクックCEO (写真:ロイター/アフロ)

 「(ジョナサン・)アイブ氏は製造業に新たなトレンドをもたらした」(アップル製品に詳しい技術者のA氏)――。アイブ氏は、米アップルでCDO(最高デザイン責任者)を務める人物で、「iMac」や「iPhone」、「iPad」といったアップルの主要製品のデザインを主導してきたことで知られる工業デザイナーだ。6月27日(現地時間)、アップルが同氏が2019年末までに独立すると発表したことは、「アップルファン」のみならず、米国やアイブ氏の出身地・英国などを中心に大きな反響を呼んでいる。

 そんなアイブ氏が多大な影響を与えたのは工業デザインの業界にとどまらない。冒頭のコメントにあるように、ものづくりにも大きな影響を及ぼした。アルミニウム合金のかたまりを削り出す「切削加工」で作った金属筐体(きょうたい)を、ノートパソコンやスマートフォンといった電子機器のトレンドにしたことである。

 アップルのノートパソコン「MacBook」やタブレット「iPad」、スマートフォン「iPhone」といった切削加工の金属筐体を採用した機器がヒットすると、競合他社もそれに追随した。

デザインの自由度が高い

 そもそもアイブ氏は、「素材として金属とガラスを非常に好んでいる」(A氏)という。現行機種でわかりやすいのは、アルミニウム合金とガラスを組み合わせた筐体を採用した「iPhone XR」だ。

 アイブ氏が切削加工にこだわったのは、加工精度が高く、かつ設計変更も容易で、筐体デザインの自由度が高まるからだとされる。例えば切削加工の精度はプレス加工に比べて少なくとも1桁高いという。望み通りの形状を作る場合、設計値と加工品の誤差は切削加工の方がプレス加工の1/10以下になる。

 形状の設計変更も切削加工の方が容易だ。プレス加工の場合、筐体の形状を変更するには金型を変える必要があり、その分コストと手間がかかる。切削加工であれば、工作機械のCNC(数値制御装置)のプログラムを変えればいいので設計変更が簡単だ。

 ただアップルが「MacBook Air」や「iPhone」などをヒットさせるまで、電子機器の金属筐体はプレスやダイカストによる加工が一般的だった。切削加工はコストが高く、大量生産に不向きだとされていた。加工時間が長くなるのがその主な理由で、「プレス加工であれば数秒で作れる形状が、切削加工だと1時間かかった」(A氏)。

工作機械の特需を生む

 こうした課題に対してアップルが提案したとされるのが、大量の切削加工機を製造業者に導入してもらい、一気に多量の金属筐体を成形することだった。大手EMS(電子機器受託生産サービス)企業である台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)はアップル製品を大量生産するために、数万台規模の切削加工機を用意した。

 アップルの競合も切削加工の金属筐体を採用するようになると、切削加工機に対する需要が急速に高まった。その「特需」の恩恵を受けたのが、日本の工作機械メーカーや、工作機械のモーターの駆動・制御を行う「モータードライブ装置」のメーカーだ。

 アップル発の切削加工ブームは、半導体業界にも影響を及ぼした。金属を削る「ミル」部分の回転速度を高めると削る時間が短くなり生産性が高まる。そこで、高速化に適する「SiC(シリコンカーバイド)」製のパワー半導体を導入する企業も現れた。SiCは現行のシリコン(Si)に続く次世代材料で、Siよりも高価だが切削加工機の付加価値を高められることから、SiCを採用する機運が高まった。三菱電機はモータードライブ装置に採用した。