本質的な議論を忘れた米国
さらに火種を挙げるとしたら、米国全体が保護主義に傾倒するあまり、米経済の成長に欠かせない要素とは何かという本質的な議論を忘れてしまっていることにある。
トランプ政権下の関税引き上げに対する議論が好例だ。ニューヨークなど米国各地で取材をしていると、地方のブルーカラーと呼ばれる労働者層だけではなく、都市部のホワイトカラーの中にも「米国の産業を守るためなら関税もやむを得ない」との考えを持つ人が増えてきたように感じる。
無論、彼らも関税が直接的・間接的に米国の消費者を痛めつけることは承知している。それでも関税を支持するのは「中国はアンフェア」との共通認識を持っているからだ。中国は自国の産業発展のためにあらゆる国策を尽くしてきた。米国側から見ると、それが「海外から技術だけ吸い取って市場を開放していない」と映るのも理解はできる。
関税は「延命策」でしかない
ただ、関税をかけることよりも大事なことがあるように思う。2001年にノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学教授のジョセフ・スティグリッツ氏がCNBCのインタビューでこんなことを言っていた。「製造業を活性化するなら、R&D(研究開発)や人材教育にもっと投資すべきだ」と。
確かに輸入品に関税をかけることで、鉄鋼やアルミなど米国から消えつつある産業を守れている側面はある。だが、それは一部の産業に限られるうえ、少し寿命を延ばす「延命策」でしかない。中国という、米国民が納得しやすい共通の敵を作ることは、選挙戦を勝つうえでは有利に働くだろう。でも、米経済そのものにとってはどうだろうか。スティグリッツ氏のような経済学者が、米国民に対してもっと声をあげるべき時が来ているように感じる。
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