製造業が相次ぎ中国から逃げ出している。米中貿易摩擦により米国向け製品に高関税が課されたことが主因だ。ただ人件費の高騰や環境規制の強化を背景に、かねて中国から生産拠点を移す動きは出ていた。
中国、台湾、そして日本のメーカーの多くが新天地を求めてアジアをさまよう。その右往左往する姿を冷ややかに見る企業がある。複合機大手のコニカミノルタ。今年3月まで同社の常務執行役生産本部長を務め、現在はコンサルティング会社を経営する浅井真吾氏は「こうした事態を見越して、マレーシアでは5年以上前から手を打ってきた」という。

コニカミノルタの前身、ミノルタがこの国に進出したのは1970年代に遡る。当時、いち早く労働集約的な製造業を誘致したマレーシアは日系メーカーを引き付け、域内でも先頭を切って経済成長を成し遂げた。だが人件費の上昇などを背景に2000年ごろから労働集約型産業の国際競争力は低下を始め、工場の国外移転が活発になる。
マラッカの工場でハードディスク部品を手掛けていたコニカミノルタも2013年に生産が終了したのを機に、新しい複合機向け部品の生産拠点をベトナムに設立してマレーシアから撤退することを検討していた。
だが、マレーシアの既存工場を閉じ、ベトナムに新工場を立ち上げるには当然コストがかかる。仮にベトナムに移っても生産コストは早晩上昇し、結局は再び移転先を探す必要に迫られるだろう。「我々はいつまで安い労働力を求めて渡り鳥のように移転を続けるのだろうか。こうした工場経営はいずれ限界がくる」と浅井氏は考えた。
移転にかかるコストを既存工場の効率化に投入
製造業ではちょうどICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)と製造技術を組み合わせて生産効率を高めようとする動きが出ていた。コニカミノルタは長くマラッカで生産を続けてきたため、現場の技術力は磨かれている。「コストを工場移転にかけるのではなく、マレーシア生産の効率化に集中的に振り向けることができれば、人にも場所にも依存しないものづくりができるのではないか」。浅井氏は決まりかけていたベトナムへの移転をやめ、マレーシアに根を張り続けることを決めた。
15年、ハードディスク向けのガラス基板から複合機関連に生産品目を変えて再出発したマラッカの工場は、同時にICTやIoT、自動化設備の導入により高い生産効率を実現する「デジタルマニュファクチュアリング」構想の舞台となった。例えば生産機器から得られた情報をリアルタイムに収集、自動処理することで文書作成など事務作業にかかる手間をほぼゼロに削減。得られた情報を現場、工場、本社の経営層の各レベルで分析できる仕組みを整えた。
製造現場では部品加工から在庫の管理に至るまで複合機の生産工程を一から見直し、作業の効率化を進めた。例えばプリンター用のトナーを充填するカートリッジユニットの生産では、400種類を超えるユニットを混流生産できる設備を導入。トナーの充填工程も自動化した。カートリッジの梱包箱は輸出先や機種ごとに100種類を超えていたが、数種類に減らした。
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