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「カルロス……Who(誰)?」

 2019年5月、米国の自動車ディーラーの実態を探ろうと訪れたニューヨーク郊外のとある日産自動車販売店。販売員から客として話を聞く中で、最近の日産自動車を取り巻く騒動についてさりげなく触れると、その販売員はキョトンとした表情でこう答えた。

米国の販売店では日産の経営危機を知る者は少ない

 「えっ? 本当に知らない?」。思わずこう聞き返したが、彼は自身が売るクルマを製造する日産の元会長の名を本当に知らない様子だった。「日本のことはよく知らない。(顧客である)ここの人たちは日本の経営のことなんて気にしていない。だから、その影響で販売が減るなんてこともない」

 この販売員は日産系ディーラーに入社してまだ数カ月だった。だから特別なのかと思いきや、少し離れた別の販売店で聞いても同様の答えが返ってきた。こちらの販売員は日産車を売って二十数年というから、さすがにカルロス・ゴーン氏の名前は知っていたが、日本での一連の騒動のことは知らなった。

 「大事なのはクルマそのもの。米国で日産は、トヨタ、ホンダと並ぶトップブランドとして知られているんだ。だから、そう簡単に売れなくなるなんてことはない」

ヘビににらまれている間に崩れる足元

 昨年11月のカルロス・ゴーン被告の逮捕から、日産の周囲は自社の将来を考えている間もないほど騒がしい。4月には、日産社内では「穏健派」と見られてきた仏ルノーのジャンドミニク・スナール会長が、日産に統合話を持ち掛けてきた。日産は強硬にこれを拒否。5月27日には、ルノーと欧米FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)との間で統合話が進んでいることも発覚した。

 ところが6月6日(米国は5日夜)、ルノーの大株主である仏政府がFCAとの交渉の中で統合後の主導権を握ろうとしたことから、FCAが手を引き統合話は破談に。そして再びルノーの目は、日産との統合に注がれることとなった。

 ヘビににらまれたカエルのような状態の日産。だが、降りかかる火の粉を経営陣が必死に振り払っている間もなお、日産が売上高の半分近くを稼ぐ北米市場での弱体化が進む。個々の販売員が実感していなくとも、その現実は数字が証明している。