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 1934年、国民党軍と戦っていた中国共産党軍10万人は拠点としていた江西省瑞金の地を放棄し、壮絶な行軍を始めた。約2年の歳月をかけ1万2500kmを移動して陝西省延安にたどり着いた時、残っていたのはわずか2万人とも3万人とも言われている。この長期にわたる行軍の中で、毛沢東は共産党における指導権を確立した。

 中国近現代史におけるハイライトの1つ、「長征」と呼ばれる出来事である。無残な敗退戦だったとの見方もあるが、中国では長征を歴史的偉業と位置づけている。形勢不利の中でも持久戦に切り替えて耐え忍んだことが反転攻勢のきっかけとなったことは間違いなく、この出来事は中国共産党のDNAに深く刻まれた。

(写真:akg-images/アフロ)

 5月20日、長征の出発地を訪れた習近平国家主席は「今こそ新たな長征に出なければならない」と国民に呼びかけた。米中貿易交渉は行き詰まり、対立が激化している。米国との争いの短期決着は諦め、持久戦に持ち込むとの宣言とも取れる。

 世界経済にとって現時点で考えられる最良のシナリオは、6月末に大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議に伴って行われる米中首脳会談で両国の貿易交渉が着地することだ。だが、もはやそのシナリオは楽観的すぎるとみたほうがよいだろう。

 関税引き上げに続いて、トランプ米大統領が打ち出した華為技術(ファーウェイ)への執拗な制裁は「何の証拠も示さずに民間企業を痛めつけることが許されるのか」と、中国では衝撃と反発をもって受け止められた。国営メディアでも連日厳しいトーンでの報道が続いており、安易な妥協はしないという共産党指導部のメッセージと受け止められている。

 「大阪で米国との貿易交渉がまとまる可能性は、ほぼなくなった。あるとすれば、トランプ大統領が得意の変わり身で譲歩した場合だ」。かつて政府機関に身を置いたある共産党員は、こう解説する。米中交渉がまとまらなければ、中国経済が大きなダメージを受けることは間違いない。「10年ほどは苦しい状況が続くだろう。だが、その後の中国経済はさらに強くなる」(同)。