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 「関税が我々の国を、弱くではなく『もっと強くする』のだ。 ただ座って見ていてくれ(Just sit back and watch!)」

 ドナルド・トランプ米大統領は10日の早朝4時48分、こんな書き込みを自身のツイッターに上げて余裕を見せた。同日0時1分、トランプ氏は中国製の家具や家電など2000億ドル(22兆円)相当の輸入品に対する関税を10%から25%に引き上げた。関税はあくまで「交渉のためのカード」(ワシントンのロビイスト)で、本当に実施されるとは予想していなかった識者も多かった。予想外の展開にこの日のテレビや新聞の報道は過熱。そのほとんどが「関税引き上げにより損失を被るのは米国民だ」と批判した。

余裕の姿勢を崩さないトランプ氏(写真:ロイター/アフロ)

 米コンサルティング会社のトレード・パートナーシップ・ワールドワイドが今年2月に発表した報告書によると、関税引き上げで米国の平均的家庭(4人)の生活コストは年間767ドル増えるという。今回の関税引き上げは、第1弾の「ロボットや工作機械など(2018年7月、340億ドル分)」、第2弾の「半導体や化学品など(同年8月、160億ドル分)」に続く第3弾。対象となる製品の金額は2000億ドルと桁違いに増えるうえ、これまでのBtoB(企業間取引)製品のみならずBtoC(消費者向け)製品にも及ぶため、消費者への影響は避けられそうもない。

始まりは「ニクソン・ショック」

 米国が第3弾の関税引き上げを実行した翌週の5月13日には、中国が米国製品600億ドル分に対して報復関税を実施すると発表。米国も同日、対中関税の第4弾の中身を明らかにした(報告書)。6月末にも実施するというこの第4弾には、スマートフォンやノートパソコン、衣類など幅広い生活用品が含まれているため、消費者もいよいよ気が気ではなくなってきた。

 負の影響を米経済に及ぼすとなれば、20年の次期大統領選でトランプ陣営が劣勢を強いられる可能性すら出てくる。誤解を恐れずに言えば、トランプ氏はただ20年の選挙で勝つことだけを考えて、ここまで走ってきた。なぜこのタイミングで「座って見ていてくれ」などと余裕の構えを貫けるのか。

 一つはトランプ氏が、対中貿易摩擦の問題を解決することこそが、次期大統領選の勝利につながると考えていることだ。米中関係の歴史をひもとけば、その理由が見えてくる。

 両国の関係が対立から協調に変わったのは1972年、リチャード・ニクソン大統領が米大統領として第2次世界大戦後に初めて中国を訪問してからだ。いわゆる「ニクソン・ショック」。米中関係が正常化したことで、米国企業も中国市場に投資したり中国企業と取引を始めたりするようになった。