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 鉄道よりもメーカーの期待を集めるのが、新しい国境ゲートの開通だ。実は鉄道が再開通したのと同じ日、既存のゲートから8キロの場所に両国をつなぐ「友好橋」も完成を見た。こちらはトラックの頻繁な往来を想定し、片側2車線を確保している。さらにトラック専用の検問ゲートや税関検査施設の建設も予定されており、2022年には運用が始まる見通しだ。「このゲートができれば『タイ・プラス・ワン』としてのポイペトの魅力が高まるだろう」とスミトロニクスの三船氏は話す。

今年4月に完成した国境をつなぐ「友好橋」

「家族と一緒に暮らせる」

 ポイペトに注目するのは日系企業だけではない。近年ではタイ企業が相次ぎ大規模なカジノやホテルを建設している。観光客の増加や現地に住む人々の購買力の向上を見越し、タイ大手財閥TCCグループは今年中に大規模な商業施設を開業させる計画だ。

 カンボジアは中国が提唱する経済圏構想「一帯一路」の沿線に位置しているため、同国からの投資も集まる。現地関係者によれば、2年ほど前から中国の観光客が急増し、中国企業によるカジノやホテルの建設、既存ホテルの買収が相次いでいるという。さらに現地報道によれば昨年、上海の企業が地場の資本と組み経済特区を開発することで合意した。「カンボジアの鉄道運営会社も中国企業に買収されるのではないか」。現地ではそんな噂も飛び交う。

大規模なカジノが乱立するポイペト市内。タイ人に加え中国人のカジノ客が急増している

 各国による投資を住民は歓迎している。開発が遅れ、農業以外に目ぼしい産業が育っていなかったポイペトや近隣地域では、タイへ出稼ぎに出る住民が少なくなかった。

 ただ、正規のルートでタイに入国するにはエージェントに少なからぬ費用を支払わなければならない。賄賂もはびこっている。その金を工面できる住民は少なく「結局、不法にタイに入国せざるを得ない」のが実情だったとある住民は話す。「今は工場やホテル、カジノなどで働ける。リスクのある不法労働に出なくても済み、家族と一緒に生活できるようになった」(同)。

 いい話ばかりではない。国際鉄道の平常運転にはまだ時間がかり、友好橋にしてもトラック専用のゲート建設はまだ「絵に描いた餅」だ。カジノ客の急増で町の治安悪化が懸念され、電力も不足している。

 だが、こうした課題もいずれは解決するだろう。少なくとも町は発展し、活性化している。植民地支配に戦争、そして内戦と厳しい歴史に翻弄されてきた「辺境の町」は投資競争の舞台となり、新たな歴史を刻み始めている。