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日系メーカーが模索する「タイ・プラスワン」の候補地に

 バンコク近郊に生産拠点を構える日系メーカーは10年以降、相次ぎポイペトに進出し始めた。14年に開設されたサンコーポイペト経済特区(SEZ)には日本電産や自動車部品を手がける日本発条などが入居し、一昨年には豊田通商がレンタル工場「テクノパーク」を開設している。

 さらにカンボジアと日本、タイの資本が入るプノンペン経済特区社(PPSEZ)も、約70ヘクタールの新たな経済特区をポイペトで開発中だ。豊田通商のテクノパークでワイヤーハーネスの加工を手がけてきた住友商事系のスミトロニクスは、順調な生産を受けて、この経済特区に今月にも自社工場を稼働させる。タイから陸送した電子部品、部材を加工して家電、OA、車載向けの基板モジュールを製造する計画だ。PPSEZの上松裕士CEO(最高経営責任者)は「日系企業からの引き合いは多く、足元で数社と交渉している」と話す。

ポイペトの新経済特区内にあるスミトロニクスの工場。操業を間近に控える

 かつて日本軍はポイペトからバンコクに向かい、そして今、日系メーカーは逆にタイからポイペトに向け押し寄せる。その大きな理由の一つは人件費の安さにある。タイの従業員の実質賃金は上昇し、集積する日系企業の多くが人件費の高騰と人材確保に頭を悩ませるようになった。

 一方、ポイペトでは豊富な労働力を確保でき、しかも「人件費をタイの3分の1程度に抑えることができる」(上松CEO)。しかもポイペトはバンコクから車で3時間半程度と近い距離にあり、ミャンマーなど他のタイ近隣国に比べ外資に対する規制も緩い。そこで日系メーカーはポイペトを、タイの既存工場を補完する拠点と位置づけ、人手のかかる一部工程を切り出し始めた。

 もっとも、進出するメーカーには頭の痛い課題もある。国境が物流のボトルネックになっていることだ。既存のゲートは大規模なトラック輸送を想定して作られてはいないため検問は効率的ではなく、1台ずつしか手続きができない。さらに夕方には閉じられてしまう。

 その結果、国境を通過する物量が増加するにつれて、ひどい渋滞が慢性的に発生するようになった。トラックが国境を越えるのに4時間以上、ときには6時間近くかかる。何より「通過に要する時間が読めない」(スミトロニクスの三船紀也・マネージングディレクター)ため、生産計画を立てにくいのが課題だった。

タイからカンボジアに抜ける国境ゲート。通過する物量が急増し渋滞が慢性化している

 国際鉄道がこの問題を解決できるかもしれないが、それには相当な時間を要すると現地関係者は見ている。カンボジア、タイ双方の鉄道運営会社の体制、設備が整っていないためだ。