任CEOの発言の翌日、記者はグローバル渉外・広報を担当する陳黎芳取締役兼上級副社長への共同インタビューで任氏の発言の真意を尋ねた。陳氏の答えは「任CEOが自ら発言したものではなく、インタビューで質問されたのでそのようなこともあり得ると答えた程度だ」というものだった。「外販しない方針を変更したのではないか」と重ねて問うたところ「まだテーブルに上っている話でもない」と苦笑しつつ、かわされた。
翌16日、中国・深セン市で開催された「ファーウェイ・アナリスト・サミット2019」に登壇した胡厚崑(ケン・フー)輪番会長はメディアの質問に「アップルと交渉している事実はない」と答えた上で、「チップ戦略に変更はない。今まで通り自主管理とオープンに協力する道を堅持する。我々の管理能力にとってかなりのチャレンジとなるため、チップを独立事業へと変えるつもりはない」と説明した。

余氏の発言は11日。任氏も広報トップの陳氏も「外販の可能性」を否定しなかった。16日の胡輪番会長のコメントも一見否定したとの印象を与えるが、今後のチップ外販に含みを残している。今すぐチップ外販に乗り出さないのは事実だろうが、このタイミングで同社幹部からこうした発言が複数出てきたのは意図的と思わざるを得ない。
ファーウェイと中国政府、ZTEの微妙な関係
一連の発言の背景にあるとみられるのが、ファーウェイと中国政府との微妙な関係だ。「中国政府は中興通訊(ZTE)へのチップ供給をファーウェイに迫っている」との話が、複数の半導体関係者から聞こえてくる。米中貿易摩擦をめぐる報道の中では中国政府とファーウェイ、ZTEは一括りに見られがちだが、内部の関係は複雑だ。
ファーウェイとZTEは、そもそも水と油の関係だ。任氏は共産党員だが人民解放軍をリストラされて起業し、社員100%出資という特異な形態の民間企業を作り上げた経緯がある。一方、ZTEは中国政府の後ろ盾のもとで成長してきた国有系企業だ。
ZTEは米国の制裁措置によって米クアルコムの半導体の調達を封じられ、2018年12月期は69億元(約1100億円)の最終赤字に転落した。現在は罰金支払いや経営陣刷新などで制裁は解除されたが、威信をかけて5G戦略を推進する中国政府としては、ZTEに同じ轍を踏ませないためには半導体調達先の分散を図りたいところ。国有企業を押しのけて成長したファーウェイへの影響力を強めておきたいとの思惑もあるだろう。
ファーウェイの社内では「長年の確執があるZTEには供給したくない」(社員)との空気が支配的だ。だが、米国政府との争いを考えれば、中国政府から遠ざかることができる状況ではない。
米政府、中国政府、ファーウェイ、ZTE――。米中貿易摩擦や5Gをめぐる覇権争いを演じる各者の利害関係は複雑に絡み合っている。今後の趨勢を見極めるには、米国と中国という単純な二項対立を超えた文脈の理解が欠かせない。
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「特派員レポート」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?