ソフトバンクとトヨタ自動車が立ち上げた共同出資会社モネ・テクノロジーズ(東京・港)は今年3月末、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)市場の創出を目指し、幅広い企業が連携する枠組み「モネ・コンソーシアム」を設立したと発表した。既にJR東日本や全日本空輸など88社が参画を決めており、具体的な取り組みについて模索が始まっている。
MaaSとは、移動手段をモノで提供するのではなく、IT(情報技術)を活用したサービスとして提供する概念を指す。自家用車を利用せず、ライドシェア・配車アプリやカーシェアを活用するイメージが一般的だ。自家用車の利用を半減させ得る「100年に一度」のモビリティ革命ともいわれ、急速に注目を集めるキーワードになった。
PwCコンサルティングの推計によれば、2030年までに市場規模は米国、欧州、中国の3地域合計で1.4兆ドル(約150兆円)に膨らむ。トヨタ・ソフトバンク連合はその流れに取り残されまいと、国内MaaS市場の立ち上げに動いた。
有力な自動車メーカーやIT企業をいくつも抱える米欧中そして日本が、この分野のけん引役になるのは当然の流れだろう。ただMaaSが普及しやすい環境や市場という面で見ると、もう一つ注目すべき国がある。13億人超の人口を抱えるインドだ。

固定通信網が整わないうちに無線通信技術が導入され、スマートフォンが急速に普及したように、新興国では時折り「リープフロッグ(カエル飛び)」と呼ばれる一足飛びの技術導入が起きる。そしてインドは、モビリティ分野における「カエル」になる可能性を秘める。
自家用車の普及率は3%にも満たず、米国や中国、欧州、日本に大きく後れを取る。一方、IT人材は豊富で、有力なスタートアップが次々と誕生している。米調査会社CBインサイツによれば、企業価値が10億ドルを超えるユニコーンの数は米国、中国、英国に次いで4番目に多い。つまりインドは自家用車に頼らない新しいモビリティに対する切実な需要があり、同時に最新のITを活用したサービスでこれを満たそうとする動きが出やすい地域と言える。
結びつくライドシェアとカーシェア
ライドシェア・配車サービスは既に市民の足として定着しつつある。インド南部の都市バンガロールで米ウーバーテクノロジーズのアプリを起動すれば、10分も待たずに車が来て目的地まで運んでくれる。夕暮れ時ともなれば、会社や学校など外出先から家路に着く人々と相乗りになる。インドの英字紙エコノミック・タイムズによれば、2018年のウーバーと国産ライドシェア「Ola(オラ)」の利用者数は一日当たり350万人に上り、3年でその数は3.5倍に増えた。
もっとも、ライドシェア・配車サービスは街中の移動には便利だが、長距離の移動には向かない。たとえばオラやウーバーを利用して100キロメートル程度移動しようとすれば2000ルピー(3000円)以上かかる。人口の8割以上が1日600円程度で暮らすインドの人々にとって、長距離移動の負担は大きい。そこで人気が高まっているのが、自動車や二輪車を時間単位で借りるカーシェアリングだ。
「事業は急成長している」。バンガロールで2015年に創業したカーシェア企業、Drivezy(ドライブジー)の共同創業者でCEO(最高経営責任者)のアシュワリヤ・シン氏はこう話す。同社の足元の月間流通総額(GMV)は350万ドルと前年同月比で倍増した。月間利用者数は2019年1月から3月の間で3倍に増えた。
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