インドや中国からラブコール

 FOMMには、タイの内外を問わず、EVに関心のある企業から相次ぎラブコールが寄せられている。

 タイのエネルギー開発大手バンプーは今年2月、FOMMに約20億円を出資すると発表した。石炭生産で成長したバンプーは事業の軸足を再生可能エネルギーに移そうと動いており、スマートシティのインフラ事業を進めている。「FOMMの小型EVを太陽光発電と組み合わせれば、効率のよいスマートシティを作ることができる」とソムルディー最高経営責任者(CEO)は期待する。

 中国やインド、スリランカ、ベトナムの企業もFOMMに接近している。

「特に年明けから、インドとスリランカの部品メーカーや物流業者から『自分たちもFOMM ONEを生産したい』という話が相次いで寄せられるようになった」(鶴巻社長)。インドは「電気自動車生産・普及促進(FAME)」と呼ばれるEV普及策を進めており、今年4月からEVの購入に対する補助金や充電施設の整備などで1500億円以上を拠出すると発表している。現地報道によれば、19年のEV販売台数は現在の2倍以上の20万台に達する可能性があるという。これを好機と見て、市場拡大の波に乗りたい企業が相次ぎFOMMに提携を持ちかけている。

 中国では大手から中小まで複数の完成車メーカーと現地生産について提携交渉が進んでいる。中国市場では格安かつコンパクトなEVが農村部を中心に市民の足として定着しており、既に60万台以上走り回っているという。ただ一部で整備不良のEVが事故を起こすなど問題が発生しており、当局は規制を強化する方針を示す。そこで中国の完成車メーカーは品質の高いFOMMのEVを市場投入しようと目論む。インドの企業とは交渉が始まったばかりだが、中国企業との間では今年中にも契約までこぎ着けそうだ。

 FOMMに関心を持つ企業は製造業だけに留まらない。足元ではライドシェア大手、インドのオラや東南アジアのグラブとの交渉も進んでいる。両社のドライバーにFOMMのEVを提供する取り組みだ。現状のFOMM ONEは4人乗りとはいえ、利用者が乗りやすい形にはなっていないため、FOMMは20年の投入を目標に、ライドシェアでの利用にも向く新型車を投入する準備を進める。「彼らは前向きに検討してくれている。開発中の新しいEVができれば使ってもらえる見通しだ」(鶴巻社長)という。

パートナーを惹きつける仕組み

 なぜFOMMの元には各国企業からラブコールが寄せられるのか。

 FOMMは開発したEVを自社生産することに拘らない。むしろ研究開発に特化し、量産については各国のパートナーに任せる構想を掲げる。またFOMMのEVは1〜2人乗りの超小型車を基盤に、モーターを駆動輪に取り付けるなどの工夫を施して室内空間を広げ4人乗りを実現した。一般的な自動車よりも低コストかつ容易に量産できる設計になっているため「土地と建物を除けば10億円程度で工場が建設でき、1万台ほど生産すれば利益がでるようになっている」(鶴巻社長)。これまで完成車を手がけたことのないメーカーにとっては事業進出のハードルが低く、比較的容易にEVの完成車市場に参入できる。

 足元では大手完成車メーカーも相次ぎ小型EVを発表している。EV用に開発した車台(プラットホーム)の外販に乗り出す大手もあり、垂直統合モデルにこだわらない経営にカジを切り始めている。新興メーカーであるFOMMはこうした戦略をより尖った形で展開しているとも言える。

 新工場がスムーズに立ち上がり、ラブコールを寄せる各国関係者がその量産風景を目にすれば、彼らとの共同作業を通じてFOMMはアジアのEV市場で存在感を発揮できるかもしれない。

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