年間200万台以上を製造する自動車産業の一大集積地であるタイで、政府が完成車メーカーに対し電気自動車(EV)の生産を促している。5日の閣議で、EVの物品税を免除する減税策を了承。EVやプラグインハイブリッド車(PHV)の部品生産に対する税制優遇も導入し、昨年末までに20社程度が申請したようだ。日産自動車は昨年からEV「リーフ」の輸入販売を始め、トヨタ自動車は今年5月にも車載電池の生産に乗り出すと発表。政府の意向に呼応して各社が電動車の生産に布石を打ち始めている。
もっとも、タイ国トヨタ自動車のチャチャイ上級副社長が「PHVとEVのどちらを先に生産するかは検討中だが、PHV生産のほうが可能性は高いだろう」と語るように、各社とも現段階でEV生産のハードルは高いと見る。価格は高く、充電拠点の整備も進んでいないためだ。「各社がEVの税制優遇制度を申請したのは、政府との『お付き合い』の意味合いも強い」とある関係者は指摘する。
こうした中、タイでいち早くEVの量産を始めるメーカーがある。新興の日系メーカー、FOMM(フォム、川崎市)だ。既にEV生産の優遇措置の承認を受け、このほど開発したEV「FOMM ONE(フォム ワン)」を年間で1万5000台ほど量産できる工場を3月末にも稼働させる。

FOMM ONEは欧州の小型車両規格「L7e」に準拠した世界最小クラスの4人乗りEV。交換式の車載電池を4つ搭載し、1回の充電で160キロメートルの距離を走ることができる。年間1万台の販売を目標にまずタイで販売。来年中には欧州に輸出する計画もある。トヨタ車体で超小型EVの「コムス」を開発した実績を持つ創業者で社長の鶴巻日出夫氏を中心に、2013年から開発を進めてきた。「足掛け6年。ようやく量産の目処がついた」。工場の稼働を目前に控え、忙殺されつつも鶴巻社長は安堵の声を漏らす。
日系完成車メーカーが早期のEV普及を懐疑的に見るように、鶴巻社長もFOMM ONEの売れ行きについて楽観視はしていない。販売価格は66万4000バーツ(約230万円)と、例えば日産のリーフ(販売価格は199万バーツ)など他のEVに比べれば低価格だが、一般的なガソリン車に比べれば割高だ。アジアでは比較的大きなサイズの自動車が人気のため、コンパクトかつ斬新なデザインのFOMM ONEが受け入れられるには「時間がかかる」と見ている。

それでも、前のめりにも映るEV量産にFOMMが乗り出すのには訳がある。新工場は量産拠点であると同時に、「ショールーム」としての役割が期待されているのだ。
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