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購入後7日以内なら返品可能に

 問題は、ディーラー網がなくなると顧客が試乗しにくくなることだ。そこで導入したのが、購入後の返品の新ルールだ。購入から7日以内で、走行が1000マイル(1600キロメートル)以下であれば、支払った代金を全額払い戻してくれる。

 「乗ってもらえれば必ず気に入ってもらえる」というマスクCEOの自信の表れとも言える。また、不満があって結局返却した顧客がどのようにクルマを利用しているのか、といったデータも得られる。なお、返品時にはテスラの拠点か、指定された場所に届ける必要がある。今後、そうした自社拠点や提携先を整備していくのだろう。

 ネット販売に移行する直接の狙いは、28日にディーラー販売網の廃止と同時に発表したモデル3の販売価格の大幅値下げだ。ネット販売に全面移行することで約6%のコストを削減し、その分を値下げに振り向ける。

テスラはモデル3の価格を3万5000ドルに引き下げた。販売サイトではさらに安い2万4450ドル(約270万円)という価格も表示している。これは補助金とガソリンの節約額を盛り込んだ「アフターセービング」の価格だ

 マスクCEOは常々、「テスラのEVは高過ぎる」と言っており、モデル3を発表した際に3万5000ドル(日本円で約392万円)の価格を実現することを約束した。2月上旬には4万2900ドルへと小幅の値下げを実施したばかり。そこからさらに2割引き下げた格好だ。内装を多少簡素化したほか、フル充電で220マイル(約350キロメートル)と航続距離を短くした。これは従来の最低価格モデルと比べて約15%短い。

 直販に大きく舵を切ったのはコスト削減だけでなく、企画・開発から生産、販売、サポートに至るサプライチェーンの一体化も狙っていると考えられる。規模の拡大に伴って、契約によるフランチャイズのディーラーが増えてくると、顧客動向を直接把握しにくくなる。コストに加えてマスクCEOがこうした点を嫌った可能性もある。

 テスラはネット販売によって、コスト削減と顧客行動のより詳細な把握という二兎を得ることができるという目論見だ。顧客の協力を得ながら、企画から開発、製造・販売、保守までのサプライチェーンを一貫管理しようとしている。

 ただ自動車の場合、何かトラブルがあった場合に頼りになるのは販売店であるディーラーだ。ネット販売への移行と同時にメンテナンス網の充実も求められる。テスラであれば、全米の故障が多そうな場所にメンテナンス用の専用車を走らせて対応する、といった施策も視野に入っているだろう。

 クルマという高額商品で究極の直接取引に移行するテスラの試みが成功するか。自動車業界だけでなく、同様に高額商品を販売会社がセールスする不動産などの企業は、その成否を固唾をのんで見守っていることだろう。テスラの決断は大きな転換点になるかもしれない。


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