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動画作りで街の文化を知る子供たち

 BYTEがプログラムを提供しているノガレス・ソノラの教会に足を運んだ。

 国境から南に15分ほど。未舗装の砂利道を進んだ先に目指す教会があった。ドン・ボスコ教会である。周囲の斜面にはブロック塀を積んで屋根を載せただけの掘っ立て小屋が並んでいる。経済成長が続くノガレスには雇用の口を求める人々がメキシコ全土から集まる。2000年に約15万人だった人口は24万人になった。この場所は、そうやって集まった人々が勝手に家を作ったスラム街である。

ノガレスには労働者が勝手に家を建てたスラム街がいくつかある

 筆者はブラジルのリオデジャネイロやベネズエラのカラカス、メキシコのシウダー・フアレスなどの中南米のスラムを訪れたことがある。足を踏み入れた瞬間に住民に囲まれたこともあり、どこも危険な香りで一杯だったが、ノガレスのスラムはどこかのんびりとした雰囲気だ。

 ドンボスコ教会は共働きの貧しい家庭を支援するため、併設する若者向けのコミュニティセンターで放課後学校プログラムを提供している。

 「このあたりは貧困層のコミュニティで子供たちが手にできるチャンスは限られている。その中でやったことのないスポーツを体験できるのは重要なことだ。ノガレスにはサッカーやボクシングなどの才能を持つ子がいる。きっとテニスのポテンシャルもあるだろう。将来のテニス選手がここから出るかもしれないね」。神父のフランシスコ・サンチェスは笑う。

BYTEがテニスを教えているスラム街の教会

 「30人の子供にテニスを教えるので大忙しだったよ」。そうチャーリーが振り返るように、BYTEの当初の活動はテニスに限られていた。だが、ドン・ボスコ教会や孤児院に通うにつれて、子供たちに教育の機会が不足していると感じるようになった。

 彼らは地元の小学校に通っているが、学校の授業は伝統的なもので米国の小学校に比べれば魅力に欠ける。貧困の中で不安定な生活を送っており、勉強に集中できる環境にない子供も多い。その中で、既存の学校にはないようなコンテンツを提供できれば、子供たちが学びにもっと関心を持つようになるのではないかーー。そう考えたのだ。

 そんな時、チャーリーはひとりの女性に出会う。ジャックルベリー・ゴンザレス・エルモシージョ、通称ジャッキーである。

 32歳の彼女はノガレス・ソノラで生まれ育ったシングルマザー。母国語はスペイン語だが、英語も問題なく話す。ボーイッシュなショートカットに、ゴーグルのような丸形サングラスをかけてスクーターを乗り回す姿を見ていると、とても12歳の子供がいるようには見えない。

BYTEで教育プログラムを担当しているジャッキー(写真:Retsu Motoyoshi)

 BYTEのアカデミック・ディレクターとして彼女が注力しているのはストーリーテリングというプログラムである。BYTEは算数や科学といったコンテンツも提供しているが、ストーリーテリングはBYTEならではのコンテンツと言っていい。

 ストーリーテリングとは、動画で自分の物語を作るというプログラムだ。まず、子供たちは自分のイメージに沿って写真を撮り、絵を描く。家族のこと、生活のこと、学校のことなど内容は何でも構わない。その後、それぞれの画像や絵に自分の声で解説を入れ、最後はそれをつなげて動画にしていく。

 なぜ自分の物語を作らせるのか。一つは、単純に子供たちが関心を持ちやすいということがある。ストーリーテリングはワークショップ形式で、最初こそもじもじしているが、iPadに初めて触る子供も多く、すぐに目の色を輝かせて動画作りに参加し始める。

 もう一つは、自分のコミュニティに誇りを持ってもらうためだ。国境はドラッグや犯罪の温床として語られることが多く、米国を脅かす危ない場所というイメージが広がっている。だが、ドラッグカルテルは存在するが、ノガレスの町を牛耳っているわけではない。密入国の幇助やドラッグの密輸に関わっている住民はもちろんいるだろうが、24万人の住民の大多数は普通の人々である。

 家族や学校、食事、趣味など、自分の物語を作ればどこかに国境のカルチャーがにじみ出る。自分の住むコミュニティがネガティブに報じられれば卑屈になってもおかしくないが、自身の生活を可視化するという作業を通してコミュニティを見直してほしいという思いがストーリーテリングには込められている。

子供たちは自分の日常に関するビデオを作る