環境と健康に意識高める市民と起業家

 昨年は環境に関連するニュースが度々話題になった。6月にはタイ南部の海岸に打ち上げられたクジラの胃の中から大量のプラスチックゴミが発見されたことが広く報道され、人々の耳目を集めた。電子機器や家電製品などを中心とする廃棄物が各国から不正に輸入され、タイのあちこちに放置されていることも問題視された。さらにタイ南部で計画されていた大規模石炭火力発電所の建設が、環境への影響を不安視する声が強まったことにより、延期に追いやられたことも記憶に新しい。

 健康に関してはどうか。バンコクの公園を歩けば、健康増進を目的にランニングや筋力トレーニングに励む多くの人々を日常的に目にする。広場ではラジカセから流れる大音量の音楽に合わせて老若男女がエアロビクスで汗を流す。フィットネスクラブの数も増えた。バンコクのライフスタイルに関する調査を実施したジェトロ(日本貿易振興機構)は「国民の間では健康・長寿に関する意識が高まっている」と指摘している。

 こうしたバンコク市民の意識の変化に敏感に反応しているのが、現地の起業家たちだ。 

 1月28日 、タイのデジタル経済振興庁(depa)の支援を受けるスタートアップ企業20社が一堂に会し、それぞれ展開する事業についてプレゼンするイベントが開かれた。事業領域はロジスティクスからEコマース、マーケティングなど幅広いが、特に目立ったのが健康や環境領域のスタートアップだ。

 たとえば昨年3月に創業したMee Poom Dee(ミー・プーム・ディー)は食用のナッツなどの種実類を使い、アレルギーの子どもに最適な健康食品を開発している。「大気汚染などの影響でアレルギーに苦しむ子は増えている。需要はあるはず」と共同創業者のピシット・デーシャバンナバンヤー氏は話す。

 GEPP Sa-Ard(ゲップ・サード)は、レストランや小売店からプラスチックなどの資源ゴミを有料で回収し、大手飲料メーカーなどに販売する事業を展開する。こちらも創業から1年未満だが、既に100を超えるレストランを顧客に抱える。

資源ゴミの回収を手がけるGEPP Sa-Ard(ゲップ・サード)のマユリー・アルーンワラノン共同創業者兼CEO(最高経営責任者)
資源ゴミの回収を手がけるGEPP Sa-Ard(ゲップ・サード)のマユリー・アルーンワラノン共同創業者兼CEO(最高経営責任者)

 タイではゴミの分別や資源ゴミのリサイクルが進んでいない。一方でブランドイメージを重視する大手飲料メーカーや食品メーカーは資源ゴミのリサイクルに本腰を入れ始めており、ゲップ・サードがレストランなどから集めた資源ゴミを高値で買い取っている。

 同社はIT(情報技術)を駆使して回収ルートを効率化したり、レストランの都合の良い時間帯に回収車を向かわせたりする仕組みを構築し、利便性と効率性を向上させている。「我々の目標はゴミをなくすこと。環境問題はこれからもっと注目が高まる分野だと思う」。タイ石油公社出身のマユリー・アルーンワラノン共同創業者兼CEO(最高経営責任者)はこう意気込む。

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