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 タイの首都バンコクの空はいつもぼんやりと霞がかかり、見通しは悪い。増え続ける汚染物質が宙を舞い、ヘイズ(煙霧)が視界を遮るからだ。

大気汚染が深刻なバンコクではビル群がかすんで見える(写真:ZUMA Press/アフロ)

 特に年明け以降は雨がほとんど降らず、大気汚染の度合いは深刻になった。微小粒子状物質(PM2.5)の濃度は世界保健機関(WHO)の基準値を大幅に超えており、世界各地の大気汚染状況を確認できる情報サイト(aqicn.org)によると、バンコクの空気質指数(AQI)は連日、「健康に良くないレベル」にある。都市別に汚染度を示すスイスのサイト、エアビジュアルによれば、1月30日現在でバンコクの大気汚染度合いは世界で8番目に悪い。

 現地紙は連日、大気汚染に関するニュースを大々的に扱い、注意喚起を呼びかけている。薬局やスーパーではマスクが飛ぶように売れ、現地報道によると供給は不足気味という。これを受けて小売大手のモール・グループは2月1日、顧客にマスクを無償で配布する取り組みを始めた。日本人学校を含む400を超える学校が大気汚染を理由に1月30日から2月1日の間に休校となり、大手銀行の研究所は市民の健康が悪化し、医療コストが上昇するリスクがあると発表している。

 社会問題化した大気汚染に政府が手をこまぬいているわけではない。人工的に雨を降らせたり、道路に水をまいたり、検問を実施してディーゼル車やトラックの都心部への乗り入れを禁止したりと、汚染を抑えるのに躍起になっている。だが今のところ、どの施策も効果を発揮しているとは言い難い。

 大気汚染を悪化させている主因は、都心に溢れかえる自動車の排ガスや工場のばい煙にあるとみられる。バンコクは世界でも指折りの渋滞が慢性化しているエリアとして知られ、オランダの地図会社がまとめた渋滞都市ランキングでは世界2位という不名誉な地位にある。工場の環境対策についても、現地紙「クルンテープ・トゥラキット紙」は社説で「これまで誰も措置を講じていなかった」と批判している。

 もっとも、バンコクでは雨の少ないこの時期になると、毎年のように汚染度合いが悪化し、これを問題視する報道が出ていた。少なくとも大気がいきなり汚染されたわけではない。ただ今年は例年になく汚染に対する市民の関心が高い。深刻さが増しているのが主な理由だが、ここまで社会問題化したのには別の背景もある。バンコク市民の環境や健康に対する関心が急速に高まっていることだ。