独BMWと中国アリババ集団は1月上旬に米ラスベガスで開催された「CES 2019(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」で業務提携すると発表した。アリババのAI(人工知能)スマートスピーカー「天猫精霊」を搭載したBMW主力車種を2019年10月から中国市場向けに販売する。利用者は自宅にあるスマートスピーカーから自動車のエアコンの電源を入れたり、ドアをロックしたりできる。カーナビのルート案内やスケジュールを呼び出すことも可能だ。車内からは自宅のエアコンや照明などのスマート家電をリモート操作できるようになる。

 BMWはこれまでも米グーグルのスマートスピーカーとの間で同様の連携機能を実現していたが、中国ではアリババと組む。実は、こうしたメーカーはBMWだけではない。2018年4月には、スウェーデンのボルボ・カー、独ダイムラー、独フォルクスワーゲン傘下のアウディのクルマにも天猫精霊を搭載すると発表している。

アリババのAIスマートスピーカー「天猫精霊」
アリババのAIスマートスピーカー「天猫精霊」

 現在、世界の自動車業界で起きている変化は、「CASE」という言葉に集約される。「つながる」「自動運転」「シェアリング」「電動化」の頭文字を組み合わせたもの。インターネットやデジタル技術の活用といった、伝統的な自動車産業とは異なる領域へと競争軸が移行しつつある。

 大手完成車メーカーが一斉にアリババになびくのは、CASEでの競争力を追求する際に不可欠となるインターネットが、中国では独自の進化を遂げているからだ。国境がなく中央集権の管理者もいないというネット本来のあり方とは裏腹に、中国ではアクセス規制が実施されておりグーグルやフェイスブックなどのサービスが利用できない。その間隙を縫って、「BAT」と呼ばれる百度(バイドゥ)、アリババ、騰訊控股(テンセント)が巨大化した。

 世界の自動車関連産業では完成車メーカーを頂点にしたピラミッド型の経済圏が出来上がっている。大手自動車メーカーの既得権益を守る力学が働きやすいため、産業構造の転換スピードも鈍くなりがちだ。

 中国にも第一汽車や東風汽車といった国有の大手自動車メーカーはある。ただ、その技術は合弁相手の外資企業から供与されてきたものも多く、むしろ中国が優位性を保てる次世代の技術をいち早く確立したいとの思いも強い。中国が国を挙げて、EV(電気自動車)の普及に取り組むのもそうした背景がある。

 その中国にとって、CASEはこれまでの自動車産業の秩序を組み替えられるまたとない好機だ。「つながる」はもちろん「自動運転」「シェアリング」もネットとの接続が前提となる。そのため、閉鎖したネット空間の中で、世界的な大企業に育ったアリババやテンセントといったIT企業が中心となって、自動車産業の構造転換を実現しようとしている。

 アリババは小鵬汽車、テンセントは蔚来汽車(NIO)と、それぞれ新興のEVメーカーに出資しており、百度は自動運転技術の開発に余念がない。シェアリングでは、配車サービス大手の滴滴出行が昨年結成した「洪流連盟(Dアライアンス)」と呼ぶ企業連合に、トヨタ自動車や日産自動車、独フォルクスワーゲンなど完成車メーカーが軒並み参加した。シェアリングに最適化したクルマを作らせようという狙いが透ける。

 世界最大の販売台数を誇る中国自動車市場で、中国のネット企業が仕掛ける自動車産業のバリューチェーンの転換。それは日本で想像しているのとは比べものにならない速度で進む可能性がある。

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