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 米マイクロソフトの共同創業者、ビル・ゲイツ氏は昨年末、自身のブログにある投稿をした。“What I learned at work this year”というタイトルにある通り、難病の治療や気候変動など、ゲイツ氏が深い関心を寄せるテーマについて論じたものだ。

 この中に、興味深い内容が書かれていた。ゲイツ氏が実質的なオーナーを務める米テラパワーの中国プロジェクトが頓挫するかもしれないという内容である。

気候変動問題を人類の危機と捉えるゲイツ氏だが……

 テラパワーは次世代型原子炉、TWRの開発を進める原子力ベンチャーとして知られている。現在、商用原発で主流の軽水炉に対して、劣化ウランを燃料に使うTWRは低コストで安全性が高く、核廃棄物も減らせるという触れ込みだ。気候変動問題を人類の危機と捉えるゲイツ氏はTWRを高く評価、資金調達に手を貸すなどテラパワーを積極的に支援している。

気候変動に関する会議で話すビル・ゲイツ氏(写真:AFP/アフロ)

 「原発はカーボンフリー(二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しない)で24時間稼働する拡張性の高いエネルギー。気候変動に対処する上で理想的な技術だ」

 ゲイツ氏はブログにこう記している。 

 このTWRを実用化するにあたり、重要な役回りを演じていたのが中国だった。

 テラパワーは実用化を加速させるため、2015年に中国の国有企業、中国核工業集団と合弁会社を設立、北京から200キロほど南に下った河北省滄州市でテスト用原子炉を作ることで合意した。ここで実績を作り、世界の原発市場に打って出ようとしたのだ。

 ところが、トランプ政権の米中貿易戦争によって状況は一変してしまう。

中国を警戒する米政府が規制を強化

 テクノロジーにおける中国の台頭に警戒感を強める米政府は昨年10月に新たな規制を導入した。中国との取引を完全に禁じるものではないが、次世代型原子炉に関する技術移転や軍事への転用などがないよう厳しくチェックされる。“unlikely”という言葉を使っているところを見ると、この規制下で実証実験を進めることはかなり難しいようだ。

 東京電力・福島第一原子力発電所の事故以降、先進国の多くは原発建設を凍結するか、中止した。その中で、例外的に原発を推進していたのが中国だ。2017年に運転を始めた原子炉は世界に4基あるが、そのうち3基は中国で、もう一つも中国核工業集団がパキスタンに建設したもの。テラパワーは別のパートナーを探し始めたが、米国を含め先進国の多くは原発建設に後ろ向きだ。プロジェクト資金を出せる国も新興国も限られている。

 地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱を決めたように、トランプ政権は地球温暖化問題を軽視している。エネルギー政策も再生可能エネルギーではなく石炭を含めた化石燃料重視だ。地球の将来を憂うゲイツ氏にとってみれば、トランプ氏の近視眼的な思考こそが人類の脅威に違いない。

 だが、ルールを決めるのはあくまでも国であり、世界的な富豪であっても決まったルールには従わざるを得ない。ゲイツ氏は原発に対する米国の風向きが変わることを期待しているようだが、風力や太陽光の価格競争力が向上している中で原発に対する揺り戻しが起きるかどうかは分からない。