昨年末、日本ではスマホを使った新たな決済手段の登場に注目が集まった。ヤフーがQRコード決済サービス「ペイペイ」を立ち上げ、100億円を利用者に還元するキャンペーンを実施し、家電量販店のレジには行列ができた。LINEも「Line Pay」で大規模な利用促進キャンペーンを実施。ビックカメラの昨年12月の売り上げはペイペイ効果などで、前年同月比23.4%増となった。

 今回こうしたキャンペーンに参加したのは比較的情報感度の高い人だろうが、特に目新しいとは感じなかったはずだ。QRコードを表示して店のレジに読み取らせたり、店舗のQRコードを読み取って金額をスマホに入力したりする手法は、「Apple Pay」や「スイカ」などの非接触IC技術を使った決済に比べるとむしろローテクだ。

「デジタルマネー」がようやく登場

 ペイペイやLINE Payの本当のインパクトは、日本にようやく現金と同等以上の流通性を備えた「デジタルマネー」がようやく登場したという点にある。QRコードに目を奪われがちだが、マネーのデジタル化を実現するための手段に過ぎないと捉えるべきだ。

 こう言うとスイカやApple Pay、クレジットカードなどがあるではないかという疑問が出てくるかもしれない。これらは確かにお金の価値をデジタル化しているが、商品やサービスの代価を支払うことしかできず利用場面が限定されていた。様々な個人や組織間で自在に受け渡せる現金のような流通性はなかった点で、現金の利便性に劣っていた。

 電話やファクス、電子メール、ソーシャルメディアなどをみても分かる通り、ネットワーク外部性を備えるサービスは、ユーザー数がある一定数を超えると一気に普及する。持っていて、使って当たり前のものになるからだ。社会の基盤であるお金のあり方が変われば、お金を得ることを目標にするビジネスの形が変わることは当然だが、問題はどう変わるのかだ。それが、現在進行形で見えるのが中国だ。

中国では、伝統的な市場でもアリペイやウィーチャットペイのQRコードが掲げられている(写真:AFP/アフロ)
中国では、伝統的な市場でもアリペイやウィーチャットペイのQRコードが掲げられている(写真:AFP/アフロ)

 中国アリババ集団傘下のアント・フィナンシャルは、決済サービス「支付宝(アリペイ)」のSNS上の公式アカウントでアリペイのユーザー数が全世界で10億を超えたと公表した。ECサイトからコンビニエンスストアなどのリアル店舗、タクシー、シェア自転車、駅構内のマッサージ椅子、自動販売機、役所、路上の物乞いまで。中国ではほぼ全ての人がスマホを持ち、様々なシーンでアリペイや騰訊控股(テンセント)の「微信支付(ウィーチャットペイ)」を利用している。

 食事代を割り勘にする際などもほぼ100%、ウィーチャットペイなどで個人に送金する。筆者は現在上海に駐在しているが、出張で訪れていた日本から中国に戻って一カ月ほど財布に日本円を入れっぱなしにしていたことに気がつかなかった。支払いに財布を取り出す場面がなかったからだ。