社員による不正の最たるものは、会社のお金を懐に入れる「横領・着服」だ。会社に金銭的な損害を与えるばかりか、取引先や社会に事実が知れれば管理体制の甘さを問われ、会社の信用失墜にもつながりかねない。横領、着服はなぜなくならないのか。その理由やそうした問題社員への対処法について、経営コンサルタントで『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』(日本経済新聞出版社)の著者の前田康二郎氏や従業員の不正に詳しいみらい総合法律事務所の西宮英彦弁護士に取材し、ポイントをまとめた。

 企業で横領や着服といった不正がなくならないのはなぜか。経営コンサルタントの前田康二郎氏は、その最大の理由は、「不正を働くのは『モラルが低い特定の社員』だという思い込みが蔓延しているため」と指摘する。

 「多くの場合、不正を犯すのはどこにでもいるような、いたって『普通の社員』です」。「普通の社員」は周囲もノーマークなので、不正が発覚した時には被害が巨額に達しているケースが多いという。「実際、不正を犯した社員の評判を周囲に聞くと、意外にも『頑張って仕事をしていた』『上司や取引先からも信頼されていた』といった好意的な意見多い」(前田氏)。

家族主義がもたらす「甘えの構造」

 会社の備品を家に持ち帰る。喫茶店で休憩した際の代金を、会議費として精算する――。最初はそんな少額の不正でも、見逃されて誰からもとがめられないと、いつのまにか本人の中では当たり前の行為になっていく。そうした「モラルの小さな綻び」が積み重なって、最終的に高額の不正につながっていくという。「いきなり高額を横領する人はいません。最初はほんの些細な出来心から始まって、だんだんエスカレートしてしていき、気付くと歯止めがきかなくなっている。誰でも、無自覚に不正の深みにはまってしまうリスクがある。不正を防ぐためには、そのことを社員同士が互いに自覚することが重要です」(前田氏)。

 前田氏はさらに、日本企業特有の「家族主義」的な価値観も、不正を招く一因になっていると指摘する。「日本の企業には、職場を『公の場』というよりも、『家庭の延長』のように感じている人が多い。だから、親の財布からいくらか拝借するような感覚で、不正に手を染めてしまう。実際、不正が発覚して警察に突き出された時に、『社長はいつも、社員は家族だと言っていたのに、あれは嘘だったのか』と“逆ギレ”する社員もいます」。

 どんな企業でも、どんな社員でも、不正とは無縁ではない。組織全体でそうした危機意識を共有することが、不正を未然に防ぐための第一歩だ。

「これくらいならいいか」。そんな小さなモラルの綻びが積み重なり、巨額の横領事件に発展する