神戸製鋼のケースのように、不祥事を起こした相手が自社の「調達先」である場合、「まずは、今後の『仕入れ価格』の引き下げが、交渉の焦点になる」(大城弁護士)。ただし、値下げできる金額には限度がある。そこで、価格で折り合えない場合などは、それ以外の取引条件についてもセットで交渉する方法がある。

 例えば、仕入れる際の「最小ロット」を引き下げさせる。「1000個単位で注文を受け付ける」といったような調達先が設定する最小ロットを引き下げることができれば、部品や資材などを必要な時に適量仕入れることができ、自社で余計な在庫を抱え込まずに済む。

 他にも、部品や資材の「納入頻度」を上げさせる交渉もできる。自社の都合に合わせてこまめに納品してもらうように条件を改めれば、やはり部品や資材の在庫を減らすことができる。

賠償請求の代わりに取引条件を見直す
●「無責任な取引先」との交渉内容の例

 一方、不祥事を起こして自社に損害を与えた相手が「納入先」である場合は、納入する製品の「単価」の引き上げを求めることができる。さらに、一定期間ごとの「最低購入量」を約束してもらったり、これまで取り引きがあるものとは別の商品を新規購入してもらう方法もある。「交渉の仕方によっては、損失を補って余りある成果が期待できる」(大城弁護士)。

 取引先の不祥事によって陥った「ピンチ」を、戦ったり、関係を打ち切ったりすることではなく、逆に商流を太くすることで「チャンス」に変える。まさに「逆転の発想」だ。

交渉を有利に運ぶ「法廷外戦術」とは?

 ただし、いくらこちらが優位な立場にあっても、ビジネスの交渉である以上、油断は禁物だ。不祥事で損失を与えたという“負い目”があったとしても、相手が一方的に要求を受け入れるはずはない。

 交渉を成功に導くためには、必ず抑えなければならないポイントがある。「『こちらはいつでも損害賠償請求訴訟をする用意ができている』と相手に思わせること」(大城弁護士)だ。具体的には、相手のミスや不祥事によって受けた損害額を、例年の販売実績などのデータと対比しながら、なるべく細かく算定して、交渉の場で提示する。

 損害賠償請求訴訟を起こす際に、被害を受けた企業にとって最初の関門が「逸失利益」の算定だ。逸失利益とはこの場合、不祥事が起きたことによって失われた利益のこと。実際にどれだけの損害が発生したか算定するのは手間がかかり、被害額の算定の根拠が曖昧だと、裁判をしても請求額の大半が認められないといった事態に陥りかねない。

 逆に、きちんとした根拠を示しながら、いくらの逸失利益が生じたのか明示できれば、「要求を拒否したら訴訟に発展する恐れがあり、その場合、厳しい戦いを強いられる」(大城弁護士)と相手方に思わせることができる。

 さらに、損害を受けたことを示す「証拠書類」を交渉のテーブルで見せれば、相手へのプレッシャーは倍増する。

 例えば、欠陥部品を使ってしまったことによって顧客から取り引き停止を通告された場合、その連絡を受けたことを記した当日の営業日誌や顧客からのメールなどは、実際に逸失利益が生じたことを示す有力な証拠になる。こうした「証拠書類を社内の各部署から集めてファイルに綴じ、交渉の場で相手に見せれば、こちらの“本気度”が効果的に伝わる」。

 加害企業に寛容で、被害企業に厳しい日本の裁判制度――。

 その矛盾した状況の中で、「無責任な取引先」による被害から事業を守っていくには、こうした「法廷外の戦術」を含めたリスク管理が不可欠になっている。