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 手塚さんには、この2ページの後、ムダなところをバン、バン、バンッと省略して物語を展開できる力量がある。だから、こんな贅沢な無駄遣いができるんです。

 しかも、ラストがまた大ゴマなんです。

 見事です。ご興味のある方はぜひ、最後の1コマをご自分の目で確かめてください(『ブラック・ジャック』第1話「医者はどこだ!」=少年チャンピオン・コミックス1巻電子書籍版19巻収録)。

濃厚なドラマを短くまとめるその力量は天性のものだったのでしょうか、あるいは熟練の技だったのでしょうか。

 おそらく後者でしょう。濃厚な人間ドラマを、これだけの短編にまとめる技は、熟練の賜物だったと思います。

「ベテラン・手塚治虫」の新境地

 手塚さんの初期の名作『新宝島』は、映画を彷彿とさせる長編。『ジャングル大帝』も、あたかも大河ドラマのような壮大な物語です。

 一方、『ブラック・ジャック』は全話読み切り。それは、編集部が課した条件だったそうです。

 その中で手塚さんは、優れた短編漫画を編む方法を模索したのではないでしょうか。当時は1話30分のテレビドラマなんていうのもよくありましたから、そのあたりから省略のテクニックのヒントを得たかもしれない。

 何からでもどん欲に学ぶ人でしたから。

 1970年代初頭の手塚さんは、アニメーション会社の倒産を経験し、漫画家としても人気が陰っていた。それが『ブラック・ジャック』の大ヒットで復活したのには、ハリウッド映画に学んだ「スター・システム」も貢献しています。

 スター・システムとは、もともとチャップリンが、スター俳優を企画の中心にした映画製作を目指して使った言葉です。

 それを手塚さんは、マンガの登場人物を映画俳優のように扱う、という手法に転換しました。一人の役者がいろいろな映画に出演するように、ひとつのキャラクターがいろいろな漫画で様々な役を演じる、ということです。ある漫画では主人公のキャラクターが、別の漫画では脇役だったりする。

 これが『ブラック・ジャック』では、存分に生きていて……。