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『うつヌケ』著者として知られ、サラリーマン兼業漫画家歴三十余年。そんな田中圭一さんに「ブラック・ジャック×仕事論」を尋ねるインタビューも、いよいよ最終回。

 漫画におけるロングヒットの条件は「どこから読んでも面白い」。

 そのセオリーを見事に満たす『ブラック・ジャック』。たった1コマで分かる「巨匠・手塚治虫の熟練の技」を解説する。

 手塚治虫は漫画家生活30年にして新境地を開拓、復活を遂げた。いくつになっても異業種に学び、チャレンジを続けた姿勢に今こそ学びたい。

(イラスト:田中圭一)

 折しも今、漫画業界は過渡期にあるのだから――。

 手塚治虫の生誕90周年の節目に上梓された『もしブラック・ジャックが仕事の悩みに答えたら』(尾﨑健一著・手塚プロダクション協力)とのコラボ企画。

前回はサラリーマン漫画の可能性についてうかがいました。仕事を描く漫画には潜在的なニーズがあり、田中さんも挑戦されています。『ブラック・ジャック』は、そんな“お仕事漫画”の先駆けなのでしょうか。

 うーん。『ブラック・ジャック』というのは、今どきのお仕事漫画の系譜とはいうより、むしろ……。黒澤明監督の『用心棒』に近い世界ではないでしょうか。みんなが絶望するような局面で「あの男なら何とかしてくれる!」というプロフェッショナルが登場。そして濃厚なヒューマンドラマが展開される……。

 その意味で驚嘆させられるのは、『ブラック・ジャック』では「全話が短い読み切り」であることです。

 これがどれほどすごいことかは、読み手の立場では分かりにくいかもしれません。漫画をつくる立場に立たないと、なかなか理解しにくい。

田中さんは1962年生まれ。近畿大学在学中に漫画家デビューし、卒業後は玩具メーカーのタカラ(現・タカラトミー)勤務を振り出しに30年以上、会社員兼業の漫画家を続けてきた。その間に「売れた絶頂から、売れないどん底への転落を2回経験」。現在は京都精華大学マンガ学部で教壇にも立つ(写真:行友重治)