元シャープの片山幹雄氏が2014年に日本電産に入社し、CTO(最高技術責任者)に就任したことは広く知られている。だが、その後の具体的な仕事ぶりまでは明かされていない。
10月24日号の特集「日本電算 世界の果てまで永守流」の取材では、片山氏本人に会うことはできなかったものの、日本電産の子会社である日本電産コパル(本社東京板橋区、以下、コパル)の郡山事業所を取材した時、その片鱗を見ることができた。片山氏は日本電産コパルの会長も兼務している。
コパルは1949年に設立したカメラ用シャッターのトップメーカーだ。現在はモバイル機器向けのレンズユニットやシャッター、触覚デバイス、車載向けカメラモジュールやファンモーターなども製造している。2016年3月期の連結売上高は593億6500万円。郡山事業所は7か所ある国内拠点の中でも、海外工場に設置する製造ラインの構築や金型の製造などを手掛ける「生産技術の中核」だ。
郡山事業所を「生産技術者の大部屋」に
日本電産はこの郡山事業所を、コパルだけでなくグループ全体の生産技術の拠点の一つに育て上げようとしている。この陣頭指揮を執るのが片山氏だ。郡山事業所で最も大きな建屋の2階をぶち抜き、グループ各社の生産技術者を集結させようとしている。
福島県郡山市にある日本電産コパル郡山事業所の一角。奥に見える白い建屋の2階にグループの生産技術者が集うことになる。建屋の幅は約50m(写真で見えている部分)で、奥行きは約100mにも及ぶ(写真:野口勝宏)
「片山氏が来てから全てのスピード感が変わった」
こう話すのは、日本電産で生産技術センター副所長と生産技術開発部長を兼務する佐藤清氏だ。郡山事業所を生産技術の拠点とする活動の一環で2016年8月、日本電産本社から移ってきた。郡山にはすでに約130人のコパルの生産技術者が所属。ここに2016年10月から、日本電産を中心とするグループ各社から生産技術者を少しずつ移し始めているという。
「ロボットでロボットを作る」
グループ各社の生産技術者を集結させるのは、互いの技術を共有しやすくすることが大きい。その拠点として郡山を選んだのは、生産技術者の教育を充実させるためだ。というのも、日本電産の工場は海外にしかなく、生産技術者がモノ作りを実体験できる場所が身近にない。一方、コパル郡山事業所にはありとあらゆる部品を製造できる設備が整っている。
「金型は作れるしプレス加工も射出成形もできる。ないのはダイカスト(金型に溶融金属を圧入して鋳造する加工方法)くらいだったが、それも整える予定だ」(佐藤氏)
金型を製造するラインの一部。放電加工機が並ぶ(写真:野口勝宏)
部品を連続的にメッキするライン。手前の帯状に見える金属板は最終的に小さく切り離され、部品となる。メッキは専用会社に外注することも多いがコパルでは内製している(写真:野口勝宏)
ここから読み取れる片山氏の狙いはこうだ。
国内からどんどん工場が消えている。片山氏本人もシャープ時代、大阪府堺市に巨大な液晶工場を建設して業績悪化の一因を作るという失敗を経験した。郡山事業所もデジタルカメラ部品を中心に製造してきたため市場の縮小で生産数が激減、存亡の危機にあった。
しかし、国内から工場を完全になくすことは技術者を日本から輩出し続けることを考えれば得策ではない。片山氏は郡山事業所の空いたスペースを活用し、ここを最先端の生産技術の拠点にしようとしている。
さらに片山氏は郡山事業所にもう一つ、重要な役割を与えた。IoT(モノのインターネット)の最先端工場にすることだ。佐藤氏によると、片山氏は常々、こんなことを言っているという。
「ロボットでロボットを作る」
IoTというと、通信機器を搭載したメガネや腕時計といったウェアラブルを思い浮かべる人は多いだろう。しかし、工場の生産設備をインターネットでつないで一元的に監視・管理できるようにすることもIoTの一つ。近年は「インダストリー4.0」の呼び名でも知られている。
通常、IoT工場を作るにはあらかじめその目的で作られた最新設備を導入する。しかし、片山氏の頭にあるのは、それだけではないようだ。既存の古い設備にもセンサーや通信機能を追加することで、新旧に関係なく工場内にある全ての設備を一元管理できるようにするという。
ここで記者が気になったのは、「見える化ツールの標準化」だった。新旧を問わずIoT化すると言っても簡単ではない。機械の何を見える化し、どうなった時にどうしたいのかの「標準」を新旧で共通にしなければ、一元で見えるようにしたところで意味がないからだ。
これは一般論だが、例えば、新しい機械では「ツール(切削加工なら部品を切削する工具)が○μm消耗したら自動で停止する」という仕組みが付いていたとする。しかし、旧式の機械にはない。この場合、旧式でも同じように消耗を検知するセンサー類を付けてアラートを出すようにすることもできるが、「そもそも○μmで良いのか。部品によっては、もっと前に知らせるべきではないのか」といったことを十分に議論した上で標準化する必要がある。
この点を佐藤氏に聞いてみると、「まさにそこで苦労しているが、11月には完成させたい」と意気込む。やるとなったら「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」が日本電産創業者、永守重信・会長兼社長のやり方。それは片山氏も同じらしい。
郡山事業所で粛々と進む「秘密の取り組み」
前述の「ロボットでロボットを作る」は、こうした地道な活動の先にある。全てが見える化できたら、モニターを生産技術者の大部屋(白い建屋の2階)に置き、遠隔で管理できるようにするという。
ただし、これだけではロボット(完全自動)でロボットは作れない。自動化のネックはこれまでどうしても人手がかかってしまっていた「組立工程」にある。この点でも抜かりない。白い建屋の1階では、組立工程の自動化に向けた取り組みが進められていた。
記者は幸い、ガラス越しに取り組みの様子を見ることができた(撮影は不可)。詳しくは説明を避けるが、「あれだけ小さなスペースで組み立てができるなら設備投資をしてもトータルコストを下げられそう」という感想を持った。実現すれば、人件費の高い日本にも製造拠点を設けられる可能性も出てくる。
工場でした失敗は工場で取り返す。そんな片山氏の「本気」を見た気がした。
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