M&A(合併・買収)を繰り返して急成長し、日本を代表する高収益企業となった日本電産。創業者、永守重信会長兼社長のストレートな発言と経営哲学は、世の注目を集めてきた。
その一方で、日本電産がどのような企業かはそれほど広く知られていない。そこで日経ビジネス10月24日号では、永守社長率いる日本電産の実像に迫る特集「先手必勝で10兆円へ 日本電産 世界の果てまで永守流」を掲載した。
独自のグローバル化で「2020年度に売上高2兆円」、「2030年度に同10兆円」という壮大な目標に向け突き進む日本電産。クルマから家電まで、中核部品がモーターと制御装置を一体にしたモジュールになっていく将来を見据え、その担い手になるべく着々と手を打つ永守社長に怪気炎を聞いた。
(聞き手は田村賢司)
「2030年度に売上高10兆円」という壮大な計画を立てています。「今はホラ」とも言われてますが、これから市場の何が変わることでそれが可能になると考えているのでしょうか。
永守社長(以下、永守):売上高が10兆円になる時を考えると、原価の半分が半導体になるんですよ。仮に原価が7兆円とすると、その半分がモーターで、残りが半導体になる。なぜかというと、様々なものの部品が、(モーターに半導体の入ったECU=電子制御装置などを組み合わせた)モジュールになっていくからです。
永守重信(ながもり・しげのぶ)氏。日本電産会長兼社長。1944年京都府生まれ。職業訓練大学校を卒業。73年に日本電産を創業した。ハードディスク向けから家電・商業・産業用、車載モーターまで事業を広げ、世界有数のモーターメーカーに育てた。(写真:山田哲也、以下同じ)
電子化が進んでいるクルマでは、部品のモジュール化はよく言われます。他の分野でも進むと。
永守:クルマからポンプ、その辺の冷蔵庫から洗濯機から全部ですな。例えば今のテレビとかパソコンを考えたら分かると思うね。テレビは昔はブラウン管があって、色んな部品を組み合わせていた。ところが液晶になった頃から、モジュール部品になり、それを組み合わせたら出来上がるようになったわけです。
その基幹部品を担えば10兆円は、ホラではなくなる。
永守:そういう時代になったら、製品はモジュールを入れ替えれば良くなる。
もちろん部品だってインターネットで売っちゃう。企業や個人が持っている製品に何か問題が起きたら、ネットでモジュールを買って、入れ替えるだけになるんですよ。パソコンのバッテリーを替えるのと一緒。
2030年度はかなり先ですが、その前に「2020年度に売上高2兆円」とも言っています。そちらは相当確度が高まっているようです。
永守:今はまだいろいろなところ、この石垣を積んだりという段階。それが終われば城が建つ。
今年夏に米国の電機メーカー、エマソン・エレクトリックの一部の事業の買収を決めた。エマソンからは2010年にもモーター事業をM&Aしていて、それが今のうちの米国の事業の中核になっている。
今度は発電機主体です。自然エネルギーの発電機。もともとは蓄電機構は、うちは持っているわけです。イタリアのアンサルドという会社を2012年に買ってね。
ただ、発電機を持ってなかった。よそから買っていたんですね。それを今度買えたから、モジュール化ができるようになった。
次のM&Aで狙う「大きな会社のモーター部門」
エマソンからは今回、サーボモーターの事業も買いました。
永守:おお、巨大なロボットのサーボモーターの事業ね。ロボット分野に出ていくためにな。工業用ロボットとか、いっぱいあります。そのサーボモーター事業も買った。
それは今までなかったんです。小さなサーボモーターは、昔買収した日本サーボのものがある。今度は大きなやつね。こうやって、ぼんぼんぼんと行くべき道へずーっと全軍がそろってきている。
そういう市場の先行きはどうやって予想して、準備に入るのですか。
永守:例えば、原子力発電への反発が強まると。ドイツもやめ、イタリアもやめと動き出す。ということは代替エネルギーが必ずいるはずと。
その代替エネルギーはどっちに行くのか。風力か、それともいまさら水力はないやろうと。でも、考えていくと、蓄電装置がいるなとなる。そのためには、蓄電機だけではなくて発電機もあるとモジュールになる。だからM&A。こんなのを作れるところは世界にそれほどないんですよ。
名前は言えないけど、大きな会社のモーター部門などを考えてるよ。
ソリューションが事業を創る元
いつも、周到に調べますね。どこにどんな会社があって、どうすればいいかを。
永守:全部分かっているわけ。ここは誰がやっていて、どのぐらいの力があるのかと。大事なのは、やっぱり世の中のソリューションというかな。原子力問題が起きた。空気が汚れているとか。それを見ないといかん。
中国では低速のEV(電気自動車)向けの基幹部品も出しました。
永守:ゴルフカートみたいなものだけど、公道で走れる。その駆動システムの基幹部品。あれは、中国は環境問題がいろいろ言われるけど、すぐにEVにはいかないと見てやった。本格的なEVに行くのはまだ先だと。ゴルフカートみたいな感じの車だけど、十分売れると思ったらやっぱり当たっているわけ。
どのくらい、走れるのですか。
永守:そんなに高速では走りません。最高でも時速80キロ。でも、1回の充電で100時間走るからね。十分なんです。
で、ここから始まっていって、その次に彼らは普通のEVを買うはずだからね。そこに照準を合わしたらいいわけですよ。それを見ていると、いつごろに本格的なEVを造ったら売れるのか分かるでしょう。
世界有数の物流会社向けに開発したAGV(無人搬送機)の駆動装置も、やはりモーターを核にしたモジュールです。
永守:インターネット社会がやってきて、物流が変わった。だから倉庫がばんばん建っていく。でも、1つの倉庫に大量の人手はかけられない。それで、無人搬送機だと。
もともと、日本電産はハードディスク用の精密モーターが柱だった。その大手物流会社も当然、パソコンは大量に使う。それで、話をしているうちに、コンピューターよりも、倉庫でものすごい難儀していると聞いてね。すぐではなかったけど、そんなことで始まったんですよ。
世界中の社員達と食事をして話す
モーターの用途が非常に広がっている。だから、半導体を使う電子制御機器と組み合わせてさらに付加価値を上げるニーズが高まるようになったと。
永守:だからモーターに減速機や電子制御回路がぼんぼん付く。回路は半導体ですから。原価の半分ぐらいは、これらで占めるようになるというわけです。だから将来、車がEVになったら原価の25%とか30%がモーターだということになるんですね。完全にキーコンポーネントになるわけ。
半導体といっても、いろんな種類があります。ルネサスエレクトロニクスを買収するのでは、といった憶測も流れました。
永守:いろんな半導体があるけど、うちはパワー半導体しかいりませんからね。電力の制御や供給を行うもので、モーターを動かすにはこれがいる。まあ、あえてややこしい会社はやめて、じっくりいきますよ。
世界中を出張しては、子会社の幹部だけではなく、社員とも食事をして話しますね。メールもどんどん受け付けているとか。ビジネスに対するカンは、そこからも得るわけですか。
永守:みんなを見ているよ。ものすごい行って見ているわ。おそらく3000人ぐらいのメールアドレスは分かっているし、幹部がどういう状況か、まあ、ほとんど把握しているわね。
昼食会だって、どこへ行ってもやっている。20人ぐらいとか、15人くらいを相手にね。だからもう何かあったら僕のところに直に投書が入るわけです。全部分かっている。そういうことが大事なんですよ。自分で掴まないといけない。
グローバル化しても、徹底してローカルですね。
永守:そうです。最近入ってきた人でも実績を挙げれば、すぐに昇級させる。入って6カ月で2回昇級したのもいる。経営者は、それを見てないといかん。たいして大きくもない会社なのに、課長の顔も知らんというような経営者がいたら、信じられんわな。
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