中国とインドは国境紛争もある。仲が悪いはずなので、中国でうまくいったことをインドがそのまま真似するということはありえない、と言う人たちがいる。確かに政治的には様々な課題が横たわっている。しかし、経済的にはこの数年、中国とインドの接近はすごい勢いで進んでいる。

 先日インドで、とある農業スタートアップの話を聞いていたのだが、彼らはドローンを使った農薬散布モデルをインドで展開しようとしていた。インドでは農家が農薬を背負って散布するのだが、その農薬を吸い込むことによる健康被害や、適切な量が分からないための過剰散布などが問題になっている。 彼らはその課題を解決しようと、ドローンを使ったスタートアップの立ち上げをしていた。

 事業を始めるに当たって、真っ先に向かったのは中国の深センだという。インド国内で苦労しながら自らハードウエアを作り上げるよりも、既に深センのエコシステムの中でドローンは各社から販売されており、それらのキットを買ってきてしまえば、それを使ってあとはインド国内でビジネスを組み上げるだけ、と彼らは話していた。

 そこに、政治的に中国とインドは仲が悪いといった話は全く出てこない。もちろん政府からすればセキュリティー上の懸念があり、様々な規制などもかけられてはいるものの、民間企業からすれば、いかに迅速に必要なものを手に入れて事業を組み立てられるか、そちらのほうの優先順位が高いのである。

「ありえない」は、ありえない

 中国の話はさておきインドの話に戻ると、インドの人たちは「できない」とは思わない。もちろん先進国やその他のアジア諸国とインドの環境が大きく異なることは認識している。その結果、先進国のモデルや他の国のモデルをそのまま転用するのは難しいと分かっている。しかし、だからといって新しい事業がインドに根付かないとは考えない。逆に言えば、インドのオリジナルモデルをいかに生み出すか、というところに着目するのである。「ありえない」という否定からは決して入らないのだ。

 そして、インドの人たちに新しいサービスや製品を提案しに行くと、かなりの確率で言われるのは、「他の国での成功事例は分かったけど、インドでの事例を持ってきて」と。当方はインドに新しくローンチしようとしているので、インドでの事例なんぞは持ち合わせていないのだが、「まずは事例を作ってくれたら話を聞くよ」という場にしばしば遭遇する。机上の空論で計画を立てるよりも、まずはやってみてその結果どうなのか、その結果からの学びとしてインド市場にどうアダプトしていくのか、そこを問われてくるわけだ。

 そういった中では、事業計画の中でできるかどうかということを議論するよりはまずは限定的な範囲でやってみるというPoC(Proof of Concept=概念検証)をいかに回し、それらをモデルケースとして展開していくかを考える必要がある。

 インドの交通事情はグチャグチャなので自動運転やら渋滞マネジメントは無理だ、とよく言われる。海外のモデルを持ち込むのはもちろん無理がある。インドでも様々なスマート・モビリティーのカンファレンスが開かれ、色々な国からのデリゲーションも訪れているが、 その中でしばしば指摘されるのはインドの交通事情は明らかに特殊であるということだ。

 日本のAI専門家の大学の先生がインドに来られた際にも、交通事情を目の当たりにし、「ここで自動運転やITSのような交通マネジメントは難しい」と呟いていた。もちろん環境があまりに違うので、そこでうまくいったものをそのまま持ち込むことはできない。しかし、だからといって世界で話題になっている自動運転やコネクテッドなどの新しい技術モデルがインドでできないというのではなく、インドオリジナルのモデルがそのうち出来上がるだろう、と考えておいたほうがいい。

 インドでは運転手の職を奪うという理由もあって自動運転は政策的に禁止されているが、交通管制システムやコネクテッドカー、シェアリングといった世界でも話題のスマート・モビリティーの考え方に基づいた取り組みが始まりつつある。こういった新しい取り組みも民間企業単体で進めていくというよりは、政府が大きな枠組みを作り、その方向性を見つつ、様々な企業が市場に参加し、新たなインド型モデルの開発というのが進んでいくと考えられる。

デリーに隣接するグルガオン市内で既に運用されている「eリクシャ」。市内随一のビジネスエリア、サイバーシティと近隣のメトロの駅をつなぐ形での使い方が多い
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