こういった新しい産業づくりは高額紙幣とフィンテックの関係に限らない。インド政府が突如言い出した、「新しく販売する自動車は2030年までにすべて 電気自動車(EV)にする」宣言。結果的にはあっという間にトーンダウンしたのだが、おそらくやると言ったらやってしまうという、そんな勢いと信念がインド政府にはあると思う。

 もちろん越えなければならない壁は多いだろうが、それでゲームチェンジができるのであれば、彼らはなりふり構わずゲームチェンジをするだろう。ゲームチェンジをすることで世界の産業地図は変わる。そして新興国は過去のしがらみが薄い分だけ、ゲームチェンジへの舵切りもしやすい。

「中国市場」を大いに参考?

 これらの動きは中国市場を大いに参考にしている、いや、中国市場から大きな影響を受けているように見える。EVに多額の補助金を出したり、公共交通機関にEVを導入したりして、中国を世界の EV 大国にしたように、インド政府も過去の事例にとらわれず、自分たちがこれぞというものには一気に力を集約しようとしているんじゃないか、というように見える。

 インド政府がEV 宣言した時、「電気も足りない国にEVなど根付くはずもない」「現実的でない」とさまざまな論評が寄せられたが、今ないからといってチャレンジしないという話ではない。もちろん越えなければならない壁は高いし、目の前の課題も山のようにあることは事実だ。しかしながら一方で、インドはリバースイノベーションを生み出してきた国でもある。 今までの先進国のやり方では解決しきれないかもしれないが、彼らなりの課題解決の生み出し方は、さまざまのトライアンドエラーを繰り返す中で行われていく。侮ってはいけないのだ。

 また、中国とインドは色々と違うが、一方で国土が広く、人口も多く、また所得格差や地域格差が大きいという共通点もある。セキュリティーという不安を抱えるのも共通点の一つだろう。こういった共通点を見ていると、インドの市場も、中国の新しい市場形成や成功モデルをインドへ横展開する、というのは極めて合理的に見える。

地方州立大学の中にある指紋認証を使ったセキュリティーシステム。学生や職員が利用する
地方州立大学の中にある指紋認証を使ったセキュリティーシステム。学生や職員が利用する

 特に中国ではさまざまな社会実験的な要素を踏まえた新しいプロジェクトが展開されている。 街中にセキュリティーカメラを導入し、AI(人工知能)を使って新しいセキュリティーシステムを作り上げている。様々なネットサービスのユーザーデータを活用し、個人情報を蓄積し、あるべき中国人の姿を作り上げようというような活動は、そのままインドの国の中でも通用し得る。

 巨大な人口と国土、所得や地方の格差など、多様性を持つ国の社会課題には共通項目も多い。一方で中国とは異なり、個人の権利やプライバシーといったものが比較的重視されるインドでは物事はそんな簡単に進まないかもしれないが、ベネフィットと不安/リスクのトレードオフは技術の進化とも関連していくのであろう。

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