突然の高額紙幣廃止宣言など、国内外から「??!」と反応される政策を進めるインド。この根底には、「まずはやってみて、駄目なら変えればいい」というスタンスがある。だからこそ、提案力のある企業やスタートアップが受け入れられる。

使えなくなる高額紙幣を新紙幣と交換するためにできた行列(2016年12月、デリー市内で)

 デジタル化の波がやってきたインドには、さまざまな新しい市場が生まれてきた。この新しい市場づくりを牽引しているのは一体誰なんだろうか。

 もちろん、経済成長に伴う可処分所得の増加によって、消費者たち自らが市場形成しているという側面もある。デジタル化の影響によって新しい価値観にアクセスし、そこで新しい市場が出来上がるといった側面はもちろんある。

 ただ、ここインドに居ると、経済発展と消費者たちによる自発的な市場形成だけではない、と思えて仕方ない。無理矢理にでも市場を創り出してしまおうという政府の強い意志を感じるのだ。

 2016年11月、突如として発表された高額紙幣の廃止。当初は大混乱を巻き起こしたが、その後はデジタル化の流れを作り出し、新しいフィンテックの産業を創出しようとしたのはまさに政府の一手である。日本でも「高額紙幣の廃止は博打以外の何ものでもない」といった論調があったが、振り返ってみるとこれは決して博打ではなく、良く言えば周到に準備された施策と思えてくる。

 ほとんどの国民が銀行口座を持たない中で、文字の読み書きができなくても銀行口座を開けるようにと、バイオメトリクス認証を用いたインドの国民総背番号制である「アダールカード」の登録を促進したり、さまざまな決済手法を準備したりしてきた。結果論かもしれないが、これらの動きが高額紙幣廃止の動きに端を発したフィンテック市場を創り出す基礎作りだったようにも思える。アダールカードは国民の90%以上に相当する12.2億件もの番号が発行されたという。

 これらが結果論だと言うのは簡単だけれど、こういった動きが色々と連動してインドのデジタル化が急速に進んだし、世界中でフィンテックという流れが強まる中で、インドの金融業界のあり方にも大きく影響を与えている。

 さらにインド政府は、政府が思い描く次の世界へのステップをすでに踏み出しているようにも見える。それは必ずしも先進国が過去に歩んできた歩みを意味するわけではない。新しい技術の動向を見越して、新しいフィナンシャル・インフラをつくっていこうという、そんな思惑が見える。

 NPCI(インド決済公社)を設立し、QRコード決済や統一インターフェースなど、さまざまな決済の共通インフラを整備し、民間企業がそれらを活用して多くの人たちにデジタル決済を中心としたペイメントサービスを提供し、より広範な人たちにデジタルの恩恵を提供していく。そんな動きが起きている。

 高額紙幣を廃止した際に、世界中から「そんな無謀なことはやるべきでない」と言われた。 日本では「考えて考えて考えて徹底的に穴を潰してから動き出す」のが一般的なやり方かもしれない。しかし、インドは「まずはやってみて駄目であれば軌道修正すればいい」というぐらいに考えているのだろう。「もっと考えろよ」という声はインドの中からも聞こえてくるが、すべての活動に対して100%の成功を模索しているとは思えない。基本はやってみて考える。駄目なら変える。やってみたら思った以上に違う方向に伸びてくることもある。やらない限りは何も始まらない、といった感じなのだ。