西山:ブルーム・ベンチャーズの投資先企業が日系企業や日本のファンドと連携した事例はありますか?

カルティク:我々の投資先で、AI(人工知能)を活用して心電図データを早く正確に解析するベンチャーのトライコグ(TRICOG)が東京大学エッジキャピタル(UTEC)から出資を受けました。多くのデータを学習させることでAIアルゴリズムが賢くなっており、これらに基づいた強い技術と知財的要素があります。また、このアルゴリズムは医療だけではなく、脳卒中のリハビリなど日本の高齢化社会に向けた他の用途への活用も考えられると思います。グローバル市場へ向けて、強力な技術や知財に基づいたテクノロジーがインドから誕生しており、今後は日本との連携を通じて、日本や東南アジア市場にもアクセスできればと思っています。

日本企業とインド発スタートアップの主な提携事例
日付日本企業インドスタートアップスタートアップ業種パートナーシップ形態
2016年4月GMOペイメントゲートウェイMobiKwikモバイルウォレット戦略的投資
2016年10月デンソーThinCI機械学習、画像処理技術資本提携、共同開発
2016年11月テクマトリックスDocsAppオンライン医療診療資本提携
2017年10月村田製作所Vios MedicalヘルスケアIoTM&A
2017年12月日立ハイテクソリューションズFlutura産業用IoTプラットフォーム資本提携、販売パートナー
2018年2月東京大学エッジキャピタルTRICOGAI心電図解析資本提携
2018年4月グラウンドGreyOrange倉庫内物流ロボット独占販売権
注)インド発のベンチャー企業は成長フェーズにおいて、今後の事業展開を鑑みて、本社を米国やシンガポールに設置することが多い。ThinCIとVios Medicalは米国本社、TRICOGはシンガポール本社

西山:日本企業に対してインド・ベンチャーとの関わり方、ポジションの取り方についてアドバイスはありますか?

アシッシュ:コンシューマービジネスにおいては、日本企業の資金も中国やアメリカの企業の資金と同じように見られます。

 一方、AIなどのディープ・テック領域(新たな科学的知見に基づくベンチャー領域)では特徴が出せると思います。日本勢の特徴は、長期的な観点でイノベーションに投資すること、「最終的に投資対象の会社を自分のものにしたい」というアプローチでないことです。どちらかというと、中国企業からは「会社を自分のものにしたい」という思いを強く感じます。

 インドでは、会社を所有されるのを懸念する経営者も多いので、ここに日本企業のチャンスがあると思います。

カルティク・レディ氏は、ブルーム・ベンチャーズの共同創業者で投資先企業の成長支援を主に担当する()。アシッシュ・ファファディア氏はCFO(最高財務責任者)でファンドの組成運用を行っている(

長期的な提携関係を築くには

西山: 長期的なパートナーシップを育んでいく上で重視すべきポイントは何でしょう。

サンジェイ:日本勢は、大規模で信頼できそうな企業と連携したいと言いますが、その一方で、インドではタタ・グループでさえ信頼できないと疑っているようです。だとしたら、インドで誰を信頼できるのでしょう?(笑)

 はっきり言わせてもらうと、インドの大企業グループとの連携はよい考えだとは思いません。(自動車業界で)マルチ・スズキの合弁が成功したのは、まだ初期の規模が小さなステージでパートナーシップを組んだからなのです。つまり、成熟した企業ではなく、いわばスタートアップとの連携だったのです。スタートアップといかに組んでいけるか、これが重要なのです。

(編集:日経BP総研 中堅・中小企業ラボ)

西山はこう見る

 シリコンバレーに8時間かけて行く日本企業は多いが、飛行時間が同じインドに足を運ぶ会社はほとんどいない。日本人は、新しいものを検討するときに非常に保守的である。だからこそ、安全なもの、つまり、実績のあるシリコンバレーを選ぶのだろう。

 先進国のようなインフラがない分、テクノロジーが一足飛びに浸透していくインド。数年で世界最大の国となると期待されているこの国で、「次の石油」ともいわれるデータをいかに集めるか。世界中の激烈な戦いがすでに始まっている。

 インド政府は自国をIoTのセンター・オブ・エクセレンス(CoE)に育て上げるべく力強く支援している。一方、弱点もある。インドの弱いハードウエアやすり合わせの技術、コンポーネントやセンサーの部品、プロダクトの量産などだ。こうした分野で日本が得意とするノウハウを提供しながら、長期的なパートナーシップを構築し、次なるマルチ・スズキを輩出できるか、そこを日本企業が問われている。

 2017年、日本の経済産業省が主導する「IoT推進コンソーシアム(ITAC)」とインド最大のITソフトウエア団体、NASSCOMとがIoT分野における協力について覚書を締結した。今年春には世耕弘成経済産業大臣がインドを訪問し、秋にはモディ首相が来日を予定している。両国の良好な関係に乗って今後多くの日本企業が動き出すことが期待される。動くならまさに今だろう。