私を含め、多くの先輩、後輩たちがA社を去りました。 退職する際は言うに及ばず、A社に在籍しているときから従業員たちは半ば強制的に株を会社に売り戻すように言われ、そこで提示されたのは額面通りの金額(1万円程度)か、せいぜいその2倍くらいのものでした。
純資産価額方式で換算すれば1株当たり数十万円は下らない価値があったと思いますが、当時はそこまで詳しい知識を持っていませんでしたし、そもそも戦う術もなかったので、会社の言いなりで株を手放すしかありませんでした。
そんな苦い経験を持っているからこそ、「21」では株の売買で揉めたくないという思いを私は強く持っているのです。

渡りに船で飛び込んできた先輩からの相談
「21」の株の譲渡をどうするべきか。そう悩んでいた2013年のあるとき、私のところに一本の電話がかかってきました。
「ある会社の株を売る話があるのだが、相談に乗ってほしい」
電話の相手はA社時代からお世話になっている先輩で、創業間もない「21」に入り、ずっと「21」を支え続けてくれた功労者の1人です。
先輩のところに来た話は「1株を10万円で買う」ということでしたが、その会社(B社)の純資産から考えれば、200万円以上の価値がある株だと私は考えました。
「上場していない会社の株がいくらになるのか?」というのは「21」の事業承継を考える上で非常に興味深いケースだと私は思いました。「これは、いろんな意味で絶好の機会になる」と内心ほくそ笑んだのです。
B社では、従業員が持っていた株を、会社や社長など経営に携わる人たちが、ものすごく安い株価で買い取っていました。額面のままか、配当還元方式が使われている状態です。
しかし、もし従業員(少数株主)と同族経営者(支配株主)との間での株の売買をする際、そんなにも安値でやり取りできるなら、支配株主からいったん従業員へ安値で売り、次世代の支配株主が安値で買い戻して「従業員を迂回すれば安値で株を承継できる」ことになります。こんなことが許されるのか、という単純な疑問もありました。
この株は10万円なのか、はたまた240万円なのか。費用はかかりますが、裁判所で公正な判断をあおぐことにしたのです。
高値で決着すれば、先輩は喜ぶ。逆に、もし安値で決着すれば、未公開株の安値での売買が正式に認められたことになり、これから所有資産を増やしていく「21」の株の譲渡にも応用できる。
「21」には少数株主がたくさんいる本社のチェーンと、オーナー経営者が支配株主になっているフランチャイズ店の両方がありますから、どちらにとっても勉強になります。
私たちはまず「21」の関連企業である「Fit」という会社から、正式に株の買い取り請求を出しました。いよいよ、株価騒動の始まりです。
(この記事は日経BP社『無税相続で会社を引き継ぐ』を再編集しました。構成:菅野 武、編集:日経トップリーダー)

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