株価があいまいだと、例えばこんな問題が起きる可能性があります。

「21」の株を過去に1万円で買った従業員が、退職するので別の従業員にその株を売るとします。従来ならば、額面通りの1万円でやり取りして終わりです。

株価がはっきりしないと様々なトラブルが発生する

 しかし、会社が資産を持つようになると「最近の21は資産をいっぱい持っていて、資産ベースで株価を計算したら50万円になるから、その価格で買い取ってくれ」と言い出すことが可能になってくるわけです(純資産価額方式)。一方、買い取る側は「いやいや、専門家に聞いたら、資産額でなく、株の配当金をベースに計算する方法もあるって聞いたぞ。それだったら1株は2万円程度だから、その価格だったら買い取るよ」と言い返すでしょう(配当還元方式)。

 株価が上がる(変動する)ということは、これまでの「21」では起こり得なかった。しかし今後はこのような問題が起きる可能性があるということです。 そしてこの株の売買は、従業員同士だけでなく、会社が買い取るということも十分に考えられます。

 そのとき、会社はいったいいくらで株を買い取ればいいのでしょうか。高く買い取れば、それだけ会社の損失(すなわち従業員全体の損失)が大きくなり、安く買い取れば、株を売ろうとしたその社員株主を結果として騙す結果になるかもしれません。

「21」の社員というのは、資金を融資したり、株を保有する出資者でもあり、経営に参画する経営者でもあります。そうやってみんなが協力して「21」という会社を自治で支えているのです。

 しかし、株のやり取りをする際に、価格があいまいで、はっきりしないというのはトラブルの原因になりますし、お互いが嫌な思いをする可能性があります。あるいは、誰かが極端に得をしたり、損をしたりすることだって考えられます。これは私たちが守ってきた「21」のあり方に反するものです。

 そう懸念するのは、以前勤めていた会社で、私自身が株の譲渡で嫌な思いをしているからです。

前の会社で体験した「辛い思い」を繰り返したくない

 私が以前勤めていたメガネ店(A社)でも、社員が株を持ち合う制度を採用していました。私が入社した当時の社長は実に素晴らしい人で、みんなが尊敬と親しみを込めて「オヤジさん」と呼んでいました。その社長が松下幸之助の理念を受けて、社員に株式を持たせたのです。

 私を含め、たくさんの社員がその社長の人柄と経営方針に惹かれ、多くの株を保有していました。社員みんなが出資者になるという根本理念は、今の「21」にも引き継がれているものです。

 しかし、その社長から次の社長に代替わりすると、経営方針はガラリと変わってしまいました。利益を社員に還元することはほとんどせず、たっぷりと内部留保をして、100億円を超える資産を持つ会社になっていったのです。 本来なら、株主である社員がもっと多くの配当を受け取っていいはずでしたが、そういうメリットが感じられない会社になってしまったのです。