広島市のメガネ小売りチェーン「21」。「会社に利益を残さない」などのユニークな経営戦略を大転換し、後輩社員に会社の「地盤」「看板」「かばん」を承継すべく新たな施策を相次いで打っている。創業者の平本清氏が、裁判所や税務署を舞台に繰り広げた“株価騒動”の一部始終とその狙いを語る。

 私ども「21」は、広島市に本社を置くメガネの小売りチェーンです。

 ひところ、「会社にお金を残さない」などの経営手法が注目され、様々なメディアに取り上げていただきました。

 利益を内部留保にしないで社員に還元するとともに、値下げの原資にして「日本一安くメガネを売る」ための戦略だったのですが、この経営方針を数年前から大きく転換しています。

「会社にお金を残さない」から「お金も資産も残す」へ

 ひと言で言えば、まったく逆の「会社にお金を残す」方針へとかじを切ったのです。

 1つには、地価が下落する一方で、家賃はそれほど下落しない。それなら、土地を買ってしまい、家賃に相当する毎月の固定費を大幅に下げた方が、もっとメガネを安く売れるし、従業員に利益を還元できるはずです。事実、返済金と固定資産税を合わせて、月当たりの支払い額が従来の家賃の3分の1以下になった店舗があります。

 と同時に、土地を買う資金として、銀行からの融資を受け入れることにしました。従来は従業員からの出資金で、会社に必要な資金のすべてをまかなってきましたから、これも経営の大転換です。年に数%の利息を支払っている出資金と比べると、金融緩和と空前の低金利で、資金調達コストは銀行からの融資のほうがはるかに安くなっています。

 銀行に良い土地を探してきてもらい、その土地を買う費用について融資を受けるので、返済金=家賃と考え「銀行地主論」と名付けました。融資を受けやすくするため、利益の一部を内部留保として会社に残すようにしたのです。社内では「返済準備金」と呼んでいます。

 このあたりの話は本連載の主題ではありませんので、ご興味のある方は拙著『無税相続で会社を引き継ぐ』を参考にしていただければと思います。

1950年、広島県呉市生まれ。高校卒業後、県下最大のメガネチェーンに入社。本店副店長、商品部長などを歴任するも、後継者争いに巻き込 まれて86年に解雇される。同様に解雇された同僚4名で「メガネ21」を設立。「人事破壊」「内部留保を持たない」など独自の経営手法で、100店舗以上を展開する小売チェーンに成長させた。
1950年、広島県呉市生まれ。高校卒業後、県下最大のメガネチェーンに入社。本店副店長、商品部長などを歴任するも、後継者争いに巻き込 まれて86年に解雇される。同様に解雇された同僚4名で「メガネ21」を設立。「人事破壊」「内部留保を持たない」など独自の経営手法で、100店舗以上を展開する小売チェーンに成長させた。

資産を持つと株の譲渡が難しくなる……

 さて従来の「21」であれば、土地や内部留保などの資産を持たないので、自社株の価値、つまり評価額を気にすることはありませんでした。例えば、辞める従業員から残る従業員に額面価格で売れば、問題なく株の譲渡ができました。しかし、土地を保有し、内部留保を増やしていくと、それだけ会社の資産価値が上がり、当然株価も上昇してきます。

 では、いったい株価をいくらで算定し、どのように引き継いでいけばいいのでしょうか。

 「上場していない会社の株式をどう評価するか」というのは、専門家の間でも、はっきりしない部分です。会社の規模、その会社が同族会社か否か、誰が買い取るのか、などによってもいろいろと算定方法が変わってくるようです。当然ながら、相続税、贈与税も関わってくる話なので、事業承継において深刻な問題になってきます。

 これが、多くの従業員が株を分散して持っている「21」の新たな経営課題として浮上してきたのです。

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