うちから独立する子たちは、OBの繁盛店をよく参考にする。だけど、すごい繁盛店だからって、必ずしも自分の店の参考になるわけじゃない。例えば、うちの店のOBで一晩に5、6回転もする大繁盛店をやっている子がいるんだけど、お母さんが「うちの息子はムダに明るい」って言うぐらいパワーがある子なんだ。それは100人に1人いるかいないかの資質だから、そんな人間力を持ったヤツと同じようにやって店を繁盛させることはできない。オレがいつも考えるのは、残りの99人でも店を繁盛させて、勝てる方法。たとえ、そのOBの店の隣りにあっても、毎日お客さんで賑わう店をどうやったら作れるかということだ。

 でもさ。それって難しいことじゃないんだよね。

 最近、うちの東京・町田にある店が調子良くてね。2年半ぐらい前に店長になった子が、すごく頑張っているの。彼が店長になってから売り上げが50%伸びて、1000万円に届かなかった月商がいい月には千数百万円を売り上げるまでになってきた。すごいことだよね。

 音楽をやりたいって、高校を中退した子でさ。一度お母さんと一緒に店をやったんだけど、うまくいかなくてすぐ閉めてしまったという。自分でも「ばかなんで」なんて言ってるようなヤツで、さっき話したOBのように特別な子じゃない。だけど、店に行くとうれしくなるぐらい色々な工夫をしているんだ。

1年あまりで売り上げを5割伸ばした東京・町田「まんま屋 汁べゑ」の店長(左)。名刺には「ぼくでも店長」と書かれている
1年あまりで売り上げを5割伸ばした東京・町田「まんま屋 汁べゑ」の店長(左)。名刺には「ぼくでも店長」と書かれている

名前で呼ぶと互いの距離が縮まる

 すごいな、と思ったのは、トイレに張った紙。「『すみませ~ん』って声をかけないで、僕たちを名前で呼んでください。僕たちもお客さんを名前で呼びたいんです」というようなことが書いてある。

 飲食店ではスタッフが、お客さんに自分を名前で呼んでもらうこと、お客さんの名前を覚えることが、ものすごく大事だ。お客さんとの距離が一気に近づいて人と人との関係ができるから、お店のファンになってくれる。うちの店ではスタッフがみんな大きな名札を付けているんだけど、それはお客さんに名前で呼んでもらうためなんだよね。

 くだんの町田の店では、トイレに紙を張っただけじゃない。アルバイトの女の子がアイデアを出してさ。「『すみませーん!』って呼んだら罰金500円です! ○○ちゃんって呼んでください」なんて書いた紙をメニューと一緒にお客さんのところに笑顔で持っていくようにしたんだって。そうしたらさ。ほとんどのお客さんが名前で呼んでくれるようになって、お店全体の雰囲気が、がらっと変わったそうだ。

アルバイトの女性が考えた、自分の名前を呼んでもらうための言葉を書いた紙。町田「まんま屋 汁べゑ」では、これをメニューと一緒に客席に持って行くなどしている
アルバイトの女性が考えた、自分の名前を呼んでもらうための言葉を書いた紙。町田「まんま屋 汁べゑ」では、これをメニューと一緒に客席に持って行くなどしている

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