だから、お客さんとの関係を作りやすいメニューとして、最近、いくつかの店で始めたのが「なんちゃってロゼ」。客席に、白ワインと赤ワインを入れたボトルを持って行って、お客さんの目の前で2つを混ぜるんだ。白ワインがお客さんの前でみるみるピンク色になっていくのが色っぽいし、「白と赤、どんな割合にしますか?」「どのぐらいがおいしいですか?」「7対3ぐらいがおいしいですよ」とかお客さんと自然に会話ができるでしょ。ワインを注ぐのはグラスじゃなくてあえてコップにした。その方が居酒屋らしいからね。

スタッフとお客さんの距離を縮める「なんちゃってロゼ」。まずコップに白ワインを注ぎ(左)、そこに赤ワインを注ぎ足す(右)と、“ロゼ”になる。各店ごとに「経堂ロゼ」などと店のある場所をメニュー名に冠して提供している(写真:大塚千春)
スタッフとお客さんの距離を縮める「なんちゃってロゼ」。まずコップに白ワインを注ぎ(左)、そこに赤ワインを注ぎ足す(右)と、“ロゼ”になる。各店ごとに「経堂ロゼ」などと店のある場所をメニュー名に冠して提供している(写真:大塚千春)

 これを始めた時にさ。バックヤードで赤と白のワインを瓶で混ぜて、あらかじめ「ロゼ」を作っちゃった子もいたの。だけど、それじゃあ、このメニューの意味がない。お客さんがメニューの何を面白いと思うのか、どう出したら楽しんでもらえるのか、それをイメージできることがすごく大切なんだよね。

 ちなみに、人気SNS(交流サイト)のインスタグラムにはさ。もう何十年も前からやっているうちの名物料理「炙(あぶ)り〆鯖」がすごく投稿されているの。それも動画。お客さんの目の前でバーナーを使って〆鯖を炙る料理なんだけどさ。火で炙ると魚を載せたバラン(魚を盛り付ける際に使う熊笹などの葉)が燃えてパチパチと音を立ててライブ感たっぷり。お客さんがすごく盛り上がってスタッフとの距離がぐっと近くなる。うちのOBも含めて、今では色んな店でやっている料理だけど、お客さんが楽しい料理というのは、変わらないんだなぁとつくづく思う。

人生を楽しむための生業

 最近、うちから独立した子たちは、どんどん店を増やしたり、海外に進出したりして「すごいなぁ」と感心している。中にはさ。店のスタッフが親の面倒を見るために地元に帰るというので、「じゃあオレ、そこに店出すから、親御さんを看ながら店をやってよ」なんてヤツもいてね。偉いよね。

 オレたちの商売って、人生を楽しむための生業にすぎないと思うんだ。だから、たとえどんどん店を拡大していくだけのエネルギーがない子だって、ものすごく豊かな人生を送れると思うの。だってさ。最初に10坪ぐらいの小さな店を出して、次にもうちょっと売り上げをあげられる15坪ぐらいの店を出して、その2軒をうまく繁盛させてさ。それで、何歳になっても店に立って「あの店のオヤジ、面白いんだぜ」なんてお客さんに愛されるようになれたら、それってすごく幸せな人生だよね。飲食業って、それ以上のものじゃないんじゃないかな。オレはそう思うんだ。

(構成:大塚千春、編集:日経トップリーダー