オレは、思い付いたことは、すぐに実行しないと気が済まない。自分のイメージが冷めないうちにやらなきゃ、アイデアは最高の形では生かせないからだ。そりゃ、全部成功するわけじゃないよ。むしろお客さんの反応が今ひとつで、失敗することの方が多いかもしれない。でも、こうした工夫を何度も繰り返すことが、本当にお客さんを楽しませるメニューなり接客なりに結び付いていく。

食べ慣れた料理が心をつかむ

 うちのある店長が、2泊3日で福岡に行って、11軒の店を視察して来たって話していてさ。色々アイデアが湧いてきて、すぐメニューに反映したいって言うの。視察で仕入れたアイデアは、帰ってきたらすぐ試してみなきゃ意味がないから、その気持ちはすごくいいことだと思うんだ。だけど、そんな時、若い子たちは「初めて食べて感動したんです」とか、手の込んだ料理をやりたがるんだよね。でも、オレたちは居酒屋だからさ。食べたことがないようなものを出してもお客さんの心をつかむ料理にはならない。そうじゃなくて、いつも出しているような料理や食材を、こんな出し方をして売れている、そういう面白さに目を付けて参考にして欲しいと思うんだよね。

 商売の武器というのは、自分が見たことも聞いたこともないようなところにあるんじゃない。常に自分の「足元」に転がっているもんなんだ。

 何十年も前、焼き肉の値段がまだ高くて、大衆的な専門店がこんなに街にあふれていなかった頃のことだけどね。焼肉店に行ったら、「これでお肉をくるんで食べてね」とサンチュが出てきたの。オレは野菜嫌いなんだけど、これで焼き肉をくるんで食べたら、すごくおいしくて感動してさ。それで、すぐ次の日に、もっと手に入れやすい葉野菜を使って「葉っぱの手巻き牛ステーキ」なんてメニューを作って売りに出したの。そうしたら、ものすごく簡単なメニューなのに、あっという間に店の名物になったんだ。オレたち居酒屋では、手間をかける、かけないというのは、売れる売れないには関係ないんだよね。そうしたらさ。簡単だけどおいしくて、楽しくて、売れる料理の方がいいわけじゃない。

 先日は、週刊誌である有名イタリア料理店が、焼酎の前割り(焼酎をあらかじめ水で割っておくこと)をワイングラスで出しているというのを見て、「これはいいな」と思った。前割りは、焼酎が水となじんでまろやかになっておいしいから、うちのある店では既に出していたメニューだった。だけど、焼酎グラスじゃなくてワイングラスで出せば、少しオヤジっぽいメニューが急にお洒落で色っぽい飲み物になる。しかも、ワイングラスは店にある備品だから、新しく用意する必要がなくてお金もかからない。焼酎はビールより原価率が低い飲み物だし、やってみない手はないでしょ。

「ワイングラスに入れるだけで、焼酎の前割りが色っぽい飲み物になる」と宇野社長。店では酒瓶からではなく、前割りを入れた洒落たガラスの瓶から客席でグラスに注ぐ
「ワイングラスに入れるだけで、焼酎の前割りが色っぽい飲み物になる」と宇野社長。店では酒瓶からではなく、前割りを入れた洒落たガラスの瓶から客席でグラスに注ぐ

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