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たった3品で繁盛店はできる!』が好評の楽コーポレーション(東京・世田谷)宇野隆史社長。最近、地方で繁盛店を経営するOBと話したときに思わず目を丸くしたという。宇野社長を驚かせたOBが徹底する商売の基本とは。
先日、仙台で店を大繁盛させているうちの店のOBに電話したときのことだ。
その子の店は鮮魚の炭火焼きを売りにしているんだけど、一昨年の秋にサンマを3000本売るって目標を決めて、見事売り切った子でさ。その後2店目をオープンしたから、「今年はどうなのかな」とふと気になったんだよね。そうしたら、なんと今度は2店で1万2000本を売り切る予定だって、さらっと言うんだよ。「ふざけんなよ」と思ったよね(笑)。
店というのはさ、店舗が増えるとどうしても力が分散しがちだ。それなのに、サンマを売る目標は各店最初の倍。「1日70本売ればいいんですよ」なんて、その子はこともなげに言う。いずれも100席もあるような大きな店じゃないのにだよ。電話したときは売り始めてしばらくした頃だったんだけど、毎日ほぼ目標に達していると言う。
楽コーポレーションOBの長尾一寿氏が仙台に出店する串刺しした魚の炭火焼きが看板メニューの「居酒屋ちょーちょ」「夜ノ焼魚 ちょーちょむすび」の2店では、3カ月で1万2000本のサンマを売り切る目標を掲げる(写真はイメージ)
自分の隣で働いていた先輩が、そんなべらぼうな目標を立てているって知ればさ。うちの店の子たちも頑張る原動力になる。うちでも秋は毎年サンマを売ろうって力を入れているんだけどね。店の様子を見ていると、お客さんが店に入ったその瞬間に「今日は絶対サンマですよ!」なんて具合に薦める声が聞こえない。OBの子との違いはさ、そこだよねって店長ミーティングで話して、オレも気を引き締めたんだ。
それからね、先日、少し肌寒かった日に人に会う前にちょっとお腹が空いたから、コンビニに入ったの。カツサンドとかを買おうかなと思っていたんだけど、ひょいっとレジの脇を見たら、肉まんが蒸し器にぎっちり入っていてさ。それで、1つ買って同業者の人に会ったら、その人も昼食は肉まんだったんだって。食べたくなるときをきちんと計算して店頭で大展開している。さすが大企業だと思った。
コンビニ以上にできること
秋になったらサンマを食べたい、寒くなってきたからホカホカの肉まんを食べたい――。サンマなんか買ってきて焼くだけだし、居酒屋の肉まんだったら冷凍品を工夫して面白く出せばいい。オレたちは仕込みに苦労するような凝った料理なんかじゃなくてさ。ごく基本的な食べ物を忠実に売っていくことが、繁盛に結びついていくんだって改めて思ったよね。
でもさ、3カ月で1万2000本サンマを売るってのはものすごいことだとは思うけど、京都大学特別教授の本庶佑さんみたいにノーベル賞を取るような研究をしようっていうんじゃない。ある目標を決めて料理を売るっていうのは誰でもできることでしょ。
それに、コンビニで思ったの。「オレだったら、もっとお客さんに店のファンになってもらえる売り方ができるのにな」って。だってさ。蒸し器の中には、少し値段の高い特製肉まんとかいうのもあってさ。気が付かなかったから普通の肉まん買っちゃったんだけど、レジで一言薦めてくれたら、オレ、そっちにしたのになぁと思ったんだよ。その、一言のお薦めがオレたちの商売の要。「あれ、薦めてくれたけどおいしかったよ」って言葉がお客さんからもらえて、他の店じゃなく自分の店を選んでくれるようになるきっかけになるんだよね。
コンビニの店員は大抵レジで精算をするだけ。でも、そこでお薦めの商品を薦めるなどお客を喜ばせる言葉があれば、コンビニも差別化できると宇野氏
売れる売れないってのは、ほんのちょっとの姿勢の違い。しかも、今この瞬間からできるような簡単なことが、店を盛り立てていくんだよね。
ものを売る姿勢だけじゃなくて、うちの店で最近、改めて気を引き締めようってスタッフのみんなに話したことがある。制服の着方だ。
震災をきっかけに作ったキャップの意味
うちの店の制服にはさ。上着のほかに黒いキャップがあるの。東日本大震災をきっかけに作った帽子でね。あのときは、しばらく売り上げががくんと落ちたから、みんなで上を向いて「クレイジー」に頑張ろうぜって思いを込めたイラストを付けたキャップを作ったんだ。チームで力強く営業するのがうちの強みだから、キャップは心を強く通わせる象徴みたいなものだったんだよね。
東日本大震災を機に作ったキャップを手にする宇野氏。キャップは「チーム楽」が一致団結する象徴でもある(写真:大塚千春)
だけど、震災から7年もたつと、現場の子たちもそのイラストの意味を知らなかったり忘れちゃったりしていてさ。未曽有の事態で一致団結するために作ったキャップなのに、だらしなくかぶったりするスタッフが増えてしまったんだよね。
だらしなく仕事着を着た職人のいる寿司屋なんて行きたくないのと一緒でさ。居酒屋だってシミひとつない制服をピシッと着て、きっちり帽子を被ったスタッフに迎えられたら、お客さん気持ちいいでしょ。また来たいと思ってもらえるよね。オレはそう思うんだ。
(構成:大塚千春、編集:日経トップリーダー)
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