メニューを増やさずにバラエティーを感じさせる

 若い子は、すぐメニュー数も増やしたがる。だけど、オレはメニューを増やさずに、お客さんに料理のバラエティーを感じさせる方法ってあると思うんだ。例えば、大根おろしの道具を、普通のおろし器と、荒くおろせる鬼おろし器の2種類用意しておく。すると、お客さんに大根おろしを添えた料理を出す際に「どっちのおろしがいいですか?」って聞けるでしょ。自然にお客さんとのコミュニケーションも生まれて、相手を楽しませることができる。冷奴を出す時にカツオ節を削って、かけて出してあげるのもいいよね。今の子たちは、本当のカツオ節も削り器も身近にないから新鮮でしょ。

メニューを増やさなくても、鬼おろし器と普通のおろし器を用意するだけで、メニューにバリエーションができる
メニューを増やさなくても、鬼おろし器と普通のおろし器を用意するだけで、メニューにバリエーションができる

 そうしたオレの感覚がなかなか通じないんだよなぁ、って考えていたら、最近、自分でまた店に立ちたくなってさ。年も年だから新しい店を切り盛りするのは無理だけど、既存の店の中に、オレの「店」の小さな看板をかけてね。要するに、間借りするような形で店をやれないかって思っているわけ。週3日(月火水、もしくは木金土)ぐらい店に立つ形で、「借亭 月下酔(しゃくてい げつかすい)」とか「まがり屋 木金堂(まがりや もくきんどう)」なんて店名にして、5つか6つ、オレがお客さんだったら食べたいと思う料理を出す。そもそもオレは、本当においしい料理が3つもあれば繁盛店はできるって思っているからさ。

 宍道湖の冷凍シジミが手頃でおいしいから、うちの店ではこれを使って、サービスでお味噌汁を出したりする。シジミには肝臓にいい成分が含まれているから、お酒を飲んでいるお客さんへのいいアピールになる。だけど、店の子たちは営業前に仕込んじゃうからシジミの味噌煮込みになっちゃうんだよね。営業前に仕込みを全部済ませないと提供が追い付かないと言うんだけどさ。ベースとなるスープだけ作っておいて、お客さんに出す時に味噌を溶いて、最後にユズをひとかけ載せる。そうやって出したら、お客さんの印象はものすごく違うでしょ。単なるサービスメニューじゃなくて、「また来たい」と思わせるメニューになるはずだ。そんな風に、手間はかけないけど、お客さんに「いいな」と思ってもらえる料理を出したいと思う。

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